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第1話 遭遇
「なんだ?あれは?」
葉月洸乃介は、ボード(空中飛行する板)に乗って学校から帰る途中、近所の公園で不思議な光景を見た。
いぶかしそうに公園を眺める彼は、家族や友人から「洸」と呼ばれている中学一年生。
私立の進学校に通う目から鼻に抜けるような知的な顔立ちの優等生だ。くわえて、運動神経も抜群で、文武両道タイプだ。
洸が目にしたのは公園の中央あたりで光る物体だった。
好奇心旺盛な彼は、ボードから降りて腕にかかえ、その光に近づいていく。
公園内にも公園の周囲にも人はいるのに、誰も気づいていないようだった。
「リングか?」
リングとは指輪のことだが、ただの指輪を意味するものではない。簡単に言えば、指輪型のパソコンだ。
現在は、二〇五〇年の日本。
かつてパーソナルコンピューターと呼ばれた情報処理の端末は、スマートフォンという携帯端末を経て、指輪や眼鏡など身に着けられる小さなウェアラブル端末が主流となった。
今では体の一部に埋め込む人さえ大勢いる。指輪の端末なんて、もう誰も驚かない、古い端末だ。
しかし、洸はその指輪を拾うことを躊躇していた。
光り方がとにかくあやしい。
まばゆいほど青紫色の光を放っている。そのことが心に引っかかっていたのだ。
すると、聞き覚えのない声が耳に入る。
「私を手に取ってください。」
「ん?だれ?」
「はやく。洸さん、拾ってください。」
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