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破れた空
「大した物は持たなくていい!とにかく急ごう!」
父はアリスの手を取って家を出た。
東の空が赤く光っていた。夢の中で聞こえたのと同じ地響きが、また聞こえた。
「パパ!『ガラハッド』は破られない筈じゃなかったの!?」
「敵も新たな兵器の開発に成功していたんだ…それでも『ガラハッド』を破れるほどだなんて…!」
町のあちこちから泣き声や叫声が聞こえる。黒煙が立ち昇る空は、普段の空よりももっと醜かった。
その時、空を眺めていたアリスはあることに気がついた。
「…パパ、アレなに?」
「えっ?」
アリスが指差した方向の中空に、細い赤い光の柱が生えていた。恐らく『ガラハッド』が敵の光線兵器を受け止めているのだが、何か様子がおかしかった。結合した『ガラハッド』の粒子壁が、ぶるぶると震えているのである。
「アレ──」
アリスが言葉を続けようとした瞬間、『ガラハッド』が弾けるように霧散した。そしてその隙を見逃さぬよう、赤い光の柱の何倍の太さもある白い光線がそこに降り注いだ。
朝が来たのかと思うくらい眩しかった。
地響き。
「そ、そんな…」
アリスの父は足を止め、呆然と立ちすくんでしまった。
「『ガラハッド』でも防げないあんなもの…どうすればいいと言うんだ…」
アリスは白い光の柱が降り注いだ場所を眺めていた。しかしそれは父とは違い、光の柱の威力に驚いていたのではない。
先に打たれた赤い光の柱が『ガラハッド』の粒子を弾き、後に打たれた白い光の柱が雲や煙を晴らしてくれたおかげで見えたそれ──。
本物の星空に心奪われてのことである。
「ねぇパパ、見て。あそこ、星空が見えるわ」
アリスの父は今のさっきで急に老け込んだ顔を彼女に向けた。
「素晴らしいわ…本物の星空があんなに美しいなんて…私、アレを見れて本当に良かった」
涙を流しながら語るアリスを、力なく笑う父が撫でた。
「…そうかい」
二人の足は既にそこから動く意思をなくしていた。それはそうだ、最早この惑星上に逃げ場など無いのだから。
親子の頭上で、赤い光の柱が『ガラハッド』を今まさに破ろうとしていた。
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