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気が付くと、遥と篠崎君はもうかなり坂を下っていて、先に駐車場の方へと戻ろうとしているのが見えた。実穂と横田君がその後を追いかけている。わたしたちも急いだほうがいいのではと思ったが、颯手が、
「駐車場に行けば合流できるんやし、あせらんでええよ」
と言ったので、それもそうかと、開き直ってゆっくり行くことにした。
2人で手を繋ぎながら坂を下りていると、途中、道端に2人の中年男性がいて、
「最近、また出始めたなぁ」
「そっちもやられたんか?」
と話している声が聞こえてきた。
「昨夜、田んぼに入ったみたいや。せっかく綺麗に生えてた稲が踏み荒らされてたわ」
「うちも、畑の野菜が取られてたわ。また鹿やろか。ほんま、あいつら、無茶苦茶しおるで」
男性たちはどうやら、このあたりの住人のようだ。
(鹿?野生の鹿が野菜を取りに来るの?)
彼らの話の内容から察するに、野生動物に畑や田が荒らされて困っているということのようだ。
(ここはのどかで綺麗だけど、里山だからこその悩みってあるのね)
わたしからすると鹿などの動物は可愛いものという認識だが、こういう場所では害獣になってしまうのだろう。
「対策を講じないと……」と、難しい顔で話し合っている男性たちを横目に通り過ぎ、わたしと颯手は集落を出た。
土産物屋にいた遥と篠崎君、実穂と横田君と合流し、駐車場まで戻ると、私たちは再び車に乗り込み、今日の宿へと向かった。
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