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「星乃、前から聞いてみたかったんだけど……」
トングを使ってウインナーを網の上で転がしていた横田君が手を止め、わたしの方を向いた。星乃というのはわたしの旧姓で、高校の同級生だった横田君は、そちらの名前の方が馴染みがあって呼びやすいのか、いまだに私のことを「星乃」と呼んでいる。
「結婚生活ってどんな感じなんだ?」
興味津々という様子で問いかけられ、わたしは危うく、肉をのどに詰まらせそうになった。
「ど、どんな感じって……」
「颯手さん、カフェオーナーじゃん。どっちが料理作ってるの?」
「ええと、それは……」
わたしは思わず視線を泳がせた。わたしは壊滅的な料理オンチだ。食事はほとんど颯手が作っている。
「僕も作るけど、杏奈も作るで」
わたしが答えるのよりも早く、颯手が横田君に回答した。
(もしかして、わたしが料理が出来ないのを、かばってくれたのかな?)
そう思ったのに、颯手は、
「杏奈の料理は独創的やねん」
と言って、思わせぶりに笑った。
「杏奈ちゃん、凝った料理を作ってるの?すごいね」
好意的に解釈してくれた実穂に、心の中で、
(黒コゲのキッシュとかね……)
と情けない気持ちで答える。
「…………」
けれど、口には出さず、まるで「そうだ」とでもいうような顔で微笑んでいると、颯手が、ぷっと噴き出した。それを、じろりと睨む。
(いじわる!)
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