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(1)トリプルデート
「見えて来たわ!」
「すごい、ほんとに茅葺き屋根だぁ!」
ミニバンの窓から外を見て、私――一宮杏奈と、三条実穂は歓声を上げた。
「のどかねぇ」
助手席に座る来栖遥も、外を眺めてそう言った後、
「ごめんね、篠崎君。運転疲れてない?」
と運転席に座る篠崎基樹に声をかけた。
「……別に。大丈夫」
メガネをかけた理知的な雰囲気の篠崎君は、不愛想に返事をすると、片手をハンドルから放し、メガネのブリッジを、くいっと押し上げた。その姿に、遥が見惚れたように頬を染める。私は遥が以前「私、篠崎君がメガネを直すしぐさが大好きなの」と言っていたことを思い出した。今もきっと、内心で「カッコいい」と思っているのだろう。
後部座席から2人の様子を見ていると、私の隣に座る一宮颯手が、
「かんにん。篠崎君。途中で運転、代わってあげたら良かったね」
と申し訳なさそうに言った。颯手はわたしの従兄で、夫でもある。私たちは入籍してからまだ6ヶ月しか経っていない新婚夫婦だ。
「それ言ったら、俺、運転免許自体持ってないですよ。篠崎君、ごめんな」
実穂の隣に座る横田龍介が、情けない表情で頭を掻いた。
「いや、別に構わないですよ。俺、運転好きなので」
篠崎君は相変わらずクールな表情と声で、気遣う男子2人に返事をした。
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