638人が本棚に入れています
本棚に追加
「遥ちゃん。お酒の化粧品があるよ」
美山での観光の帰り。
お土産を買おうと立ち寄った酒蔵で、私(来栖遥)に、今回の旅の同行者である三条実穂が話しかけてきた。
弟に地酒でも買って帰ろうかと店内をウロウロしていた私は、実穂のそばへ行くと、
「どれ?」
と聞いた。
「これ。化粧水だって」
実穂が指さした棚には、原料に日本酒を使用したというメイク落としや化粧水、クリームなどが置かれている。
「しっとりするって書いてあるわね」
「日本酒の成分ってお肌にいいらしいよ。杜氏の人って、手が綺麗だって聞いたことがある」
「へえ~」
そう聞くと、興味が出てくる。
テスターを手に取ってみると、確かにしっとりとした感触だった。
「買ってみようかしら」
「私も。杏奈ちゃんはどうするかなぁ?」
振り返って、もう1人の親友、一宮杏奈の姿を探すと、ダンナと一緒に、店員から接客を受けているところだった。彼女たちも、お酒を買って帰るつもりのようだ。肩を寄せ合って選んでいる姿からは、2人の仲の良さが伝わってくる。
「今は邪魔をしないほうがいいんじゃない?」
「……だね」
私の言葉に、実穂も頷いた。
私の彼氏の篠崎君と、実穂の彼氏の横田君は、何か喋りながら店内を回っている。この2日間ですっかり仲良くなった彼らを見て、意外だと思った。
(篠崎君、無口な方なのに、お喋りな横田君と気が合うとは思わなかった)
彼氏同士が仲良くなるのは、なんだか嬉しい。
私はもう一度、杏奈たちに目を向けた。美男美女の夫婦は絵になる。
(杏奈は、昔から綺麗よね……)
ふと、高校時代のことを思い出した。
最初のコメントを投稿しよう!