2.【番外編】一宮杏奈という女の子

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(いやいや……冗談よね。篠崎君が冗談を言うなんて珍しい) 「な、何、言ってるのよ」   「からかうなんて、嫌だなぁ」と、バシンと腕を叩いたら、 「別にからかってない」 篠崎君は、至極真面目な顔をした。 「今は学生だから無理だけど、卒業して就職したら……」 「ちょ、ちょっと待って!」  私は篠崎君の言葉を、途中で遮った。 「本気?」 「本気」  篠崎君の答えに、唖然とする。 「私たち、付き合ってまだ1ヶ月よ?」 「恋人にプロポーズするのに、付き合った日数なんて関係ないだろう?」 「いや、そうかもしれないけど……」 「俺、結婚願望強いんだ。来栖さんなら、って思ったし」  混乱している私を見て、篠崎君が、ふっと笑った。普段からあまり表情の変わらない彼の笑顔に、ドキッとする。 「こ、こんなところで言わなくてもいいじゃない……」  本当にプロポーズなのだとしたら、もう少し、雰囲気を考えてくれてもいいと思う。旅行帰りに立ち寄った酒蔵で、いきなり結婚を申し込まれるなんて、不意打ちもいいところだ。 「じゃあ今度、あらためて言うよ。その時に返事して」 「…………」  何も言えないでいる私に、篠崎君は悪戯っぽい目を向けた。  そして、 「あっちに良さそうな地酒があったんだけど、来栖さんも見てくれない?」 と言って背中を向けて歩き出す。 (ああ、ダメ。心臓が破裂しそう)  ドキドキしすぎて、呼吸が苦しい。体が熱い。 「来栖さん?」  名前を呼ばれて、私は篠崎君に駆け寄った。本当はこのまま背中に抱きつきたかったけれど、他の皆もいるので我慢する。  ――今度は私が杏奈を驚かせてやろう。  そうしたら彼女はどんな顔をするのかしら。  
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