(1)トリプルデート

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 駐車場のそばの土産物屋や食事処を通り過ぎ、道路を渡って集落の中へと入ると、時代が巻き戻ったような錯覚にとらわれた。レトロな形の郵便ポスト、畑や田、お地蔵さん、そして茅葺き屋根の民家。のどかな田舎の風景。観光地だが、周囲は民家なので、観光客も行儀よく、静かに散策を楽しんでいる。茅葺き屋根の上には、観光客の姿を見下ろすように一羽の白い鳩がとまっていた。 「畑にお花が咲いているわ。綺麗」  名前の分からないオレンジ色の花を指さすと、颯手も、 「ほんまや。綺麗やね」 と目を細めた。  集落の中には、茅葺き屋根の建物を利用したカフェやレストランなどがあり、遥が「ソフトクリームが食べたい!」と言ったので、早速、そのうちの1軒に入ってみることにした。  見た目が民家なので、何となく「こんにちは」と挨拶をして店の中に入ると、客席は和室になっていて、丸い座卓と座布団が並べられていた。私たちの他にも数組の客が入っていて、まるで自分の家のようにくつろいでいる。  店員が出てきて、 「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ」 と言ったので、私たちは縁側近くの座卓を選んだ。男子3人は座卓を取り囲むように座り、女子3人は縁側に腰をかける。「ご注文はお決まりですか?」と尋ねられたので、皆、美山牛乳のソフトクリームを注文した。
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