(1)スイーツと昔の女性

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「颯手、わたし、顔に何かついてないかな」  手元に鏡が無いので、キッチンに顔を出し、中でケーキの準備をしていた颯手に問いかけると、 「ついてないで?どうしたん?」 と不思議そうな顔をされた。 「さっき、あのお客さんに、じーっと顔を見つめられたから、何かついてるのかなって思ったの」  「何もついていないのならいいわ」とホールに戻ろうとしたら、颯手が、 「ああ、それなら、僕が『妻と働いてる』て話したからかな」 と言った。 「えっ?どういうこと?」  どうして客にわたしたちの関係を話したのか不思議に思い、首を傾げたら、 「あの人が、こないだ話してた桐谷なずなさんやで。うちのケーキが気に入ったからて、また食べに来てくれはったんやって」 と、颯手が笑った。 「なずなさん?」  わたしはびっくりして、カウンターの中から女性に目を向けた。疏水が見える窓際の席に座った女性は、服装はおしゃれでSNSに写っていた自撮りの雰囲気はあるものの、平凡な顔立ちをしている。 (写真では、もっと目が大きくて顎が細かったように思うけど……)  写真を撮った角度でそう見えたのか、それとも、加工をしていたのかもしれない。
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