638人が本棚に入れています
本棚に追加
なずなさんがどこに住んでいるのか分からず、きょとんとしているわたしに、颯手が、
「なずなさんは上賀茂神社近くの一軒家に住んではるねん。おばあさんの持ち家やってんて」
と教えてくれる。
「おばあちゃんが亡くなってから空き家になっていたんだけど、京都の大学に通い始めてから住むようになったの。賀茂川沿いの古い家よ。ねずみとか蛇が出るの。虫も多いし、困っちゃう」
わたしが年下だからか、なずなさんはわたしには敬語は無しで話した。
なずなさんのおばあさんの古い家と聞いて、わたしは昔、おばあちゃんと一緒に住んでいた日本家屋を思い出した。わたしのおばあちゃんの家も古かったが、式神が守っていたからか、ねずみなどは一匹も出なかった。
「ねずみだけじゃなくて、蛇も、ねずみとりのとりもちにひっつくの。始末に困るから、それが嫌」
なずなさんは、よほど蛇が嫌いなのか、ぞっとしたように、大げさに体を震わせた。
(蛇の出る家なんて、わたしも嫌だわ)
わたしも蛇が大の苦手。なずなさんに同情していると、
「それは困るね」
と颯手が気の毒そうな顔をした。なずなさんは、
「一人の時に家の中に出たらどうしようって思います」
と、溜息をついた。
「……本当に、あの人がそばにいてくれたらいいのに」
寂しそうにぽつりとつぶやいたなずなさんを見て、わたしと颯手は顔を見合わせた。なずなさんには、一緒に住みたいと思っている恋人がいるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!