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違う光で見てた。(前編)
夢を見た。夢の中の私は高校一年生で図書委員だった。
そこまでは現実と同じだけど、それからが夢特有の不思議さを伴っていた。私の寿命が千年もあるというのだ。なんらかの症候群の影響で、千年間は生きてしまうらしい。
私だけが成長せずに生き続ける中、好きな男の子や父親、友人達は歳を取って亡くなっていき、千年もの間に建物や自然も緩やかに終わりへと向かっていった。どこかの寂れた観覧車の下で、眠りにつくように私も最期の時を迎える。
そこで目が覚めた。
気付くと放課後になっていて、夕陽が窓から差し込む。
一人になってしまった教室の中で、周囲をぼんやりと見回す。水槽の中の金魚が無数の泡を作り出していた。誰か起こしてくれてもいいのにと思いながら、机の上に垂れていた涎を制服の袖で拭く。それほどぐっすりと眠っていたのだろう。
「やっと起きたのか」
ふと、廊下から声がする。同じ図書委員の彼だ。クラスは違うけれど、家の方向が同じなのでいつも一緒に帰宅している。お互い、どこか気にはなっていたのかもしれない。
「ごめん。待っててくれたんだ」
「……少しだけ」
一度だけ大きく背伸びをし、席を立って彼の元へ向かう。
「ありがと」
窓から射す陽の光が影を生み出し、彼の背を追い越した。
「ねぇ、知ってる? 今日って満月なんだって」
帰り道、朝の番組で観たことを思い出す。
「そうなんだ」
「なんか反応薄くない?」
「いや、だって珍しいもんでもないだろ。それより」
「それより?」
「もっと不思議なことがいい」
不思議なこと。って、なんだ。私の夢の話だろうか。
「満月だって不思議なのに」
「なんでそんなに見たがるんだよ」
馬鹿。気付け。べつに、満月が見たいわけじゃない。
私はあなたと一緒に、同じなにかを共有したいんだ。しばらく無言になり、うつむく。
その様子が落ち込んでいるように見えたのか、彼は苦笑いしながら「分かったよ」と返す。
「じゃあ今夜、二十時でいいか?」
「……うん」
本当はとても嬉しかった。
けれど、素直に感情に出してしまうのはなんだか癪に触るので、素っ気ない態度を取る。
「自然公園で待ち合わせしようね」
私達の住む街が、陽の光に飲み込まれていった。
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