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たった5分。
残された時間を、俺は思った。
何を伝えれば良い?
どうやって過ごせば良い?
早く、早くしないと。
焦る俺の手に、冷たいものが触れる。
見ると、朱里が手を握ってきていた。
俺は無言で手を繋ぎ返す。
月も星も出ていない真っ暗な空を見上げると、再び涙が零れてきた。
「大好きだよ」
朱里の声が、そっと薄暗闇に溶けていく。
もう体温は無いけれど、指先からは確かに愛情が伝わってきた。
ぽかぽかの太陽の下、手を繋ぎながらレジャーシートに寝転んだことを思い出す。
満天の星空の下、ひざに毛布を掛け、肩を寄せ合って星を指差しながら語り合ったことを思い出す。
月の欠けた薄明かりの中、しんとした夜の町を手を繋いで歩いたことを思い出す。
思い出す、思い出す、思い出す。
もう俺たちには過去しかない。
「もう長くない」と医者に宣告されたときから、決まっていたこと。
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