もう青い傘はいらない

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◇◇◇  彼は宣言通り、東京の大学に合格し、上京した。わたしは猛勉強して、彼の後を追いかけることにした。会えない間は電話していたから、寂しくなんかなかった。冷たい筐体越しの声は、いつもと少し違って聞こえたけれど、それでも大好きな彼の声だった。彼から聞く「東京」の話は、どれもきらきらしていて、わたしは期待に胸を膨らませた。「東京」にはきっとなんでもあって、「東京」にさえ行けば、これまでよりずっと楽しい日々が送れると信じていた。  彼が「待ってる」と言ってくれたから、彼に早く会いたかったから、彼の声が聞きたかったから、わたしは頑張れた。  だけど。  「合格したよ、わたしも東京に行くよ」と一番に報告したときの彼の声は、わたしの好きな声とは違う気がした。いつの間に変わってしまったんだろう。いや、気のせいかもしれない。とにかくわたしは早く東京に行きたかった。彼のいる、東京に。  だから、来たんだ。彼の住所を頼りに。サプライズのつもりで黙って行ったら、驚かされたのはわたしのほう。彼が知らない女の子と歩いているのを見てしまった。いつかわたしに貸してくれたあの大きな青い傘の下で寄り添って歩いていた。
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