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その言葉に素直に喜べない自分が憎い。本当に? って疑ってしまう。わたしは彼のことが信じられなくなっている。だけど、どうにもわたしは彼の声が好きだった。好きで仕方なかった。
「わたしとは、同じ傘に入ってはくれないんだね」
引鉄を引いたのはわたし。ぽつりと吐き出した言葉の意味に気づいたのか、彼は青い傘を持つ左手を隠すように引っ込めた。わたしとの思い出を勝手に塗り替えてしまうなんて、彼はなんて残酷なんだろう。
「だって、寂しかったんだ」
聞きたくなかった。大好きなその声で、そんな言葉は。
「もう、終わりにしよう。さようなら。大好きだったよ」
振り返らなかった。追いかけてもくれない彼のことは忘れてしまいたいと思った。
きらきらしていて、なんでも手に入りそうな東京という街で、わたしは一番大事なものを失った。振り返ると東京タワーのオレンジの光が柔らかく滲む。歩道橋の柵に肘をつく。たしかに、きらきらしているな。車のヘッドライトがひっきりなしに通り過ぎる。ビルの明かりは煌々と輝いていた。
大好きな歌を口ずさむ。また、出会えたらいいな。波形の合う人と。
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