それでも私は無味魂

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私が無視しても、悪魔は私の気を引こうとオフィス内で悪戯をし続けた。引き出しを開け閉めし、同僚の肩を叩き、給湯室の蛇口をひねり、水を出しっぱなしにし、しまいにゃ課長の愛妻弁当を勝手にムシャムシャ食べ始めた。 ほらほら、お前が俺に魂を渡す事を諦めないと、まだ悪戯を続けるぜ! 頭の中に響く悪魔の声に、バーカと心の中で返事をして、私は課長の席に向かった。 さっきから何なの?怪奇現象?怖いよ…とざわつくオフィスの中で、私だけがやけに冷静だった。今夜、悪魔に魂を狩られるかもしれないというのに。 「課長、訳がわからない現象でお昼ご飯を失ってしまったみたいですね。宜しければこちらをどうぞ。コンビニのおにぎりですけど…」 私はそう言って自分のお昼ご飯を課長の机に置いた。私が悪魔に狙われたせいで、他人に迷惑をかけてしまった事が申し訳なかった。 「いや、それじゃ井中君が困るだろう。私は良いから君が食べなさい」 悪魔はそんな私達のやり取りを、課長の弁当を食べながら見ていた。きっと皆には、箸とおかずが宙に浮き、おかずだけがフッと消える謎現象に見えるのだろう。私には憎たらしい笑顔の悪魔が、美味しくご飯を食べている様子が見えているけど。 「いえ、私は机の引き出しにカップ麺もあるので大丈夫です」 そう言って課長におにぎりを渡すと、私は自分の席に戻った。 そして私は悲鳴を上げた。パソコンに打ち込んでいたデータがみんな消えていた。 ははっ、バーカ!と頭に悪魔の声が響いた。
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