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1 拾う神、お化け屋敷の主と出会う
私は昔からよく落とし物を拾う。
お財布とか定期とか、タオルとかハンカチとか。
お弁当を拾ったこともあった。
持ち主に返せる確率は結構高い。
小銭……とかは無理だけど。
小さい頃、拾った100円玉を目の前のお店に「落ちてました。」って届けたら、黙ってレジに入れられちゃって、すごくショックだった。
以来、小銭を拾った時には募金箱に入れることにしている。
目の前にリンゴが転がってきて、拾いながら前方を見ると、スーパーの袋が破けてあわあわしているおばあさんを発見した時には、お礼にリンゴをもらって、マンガみたいだなって思ったり。
とにかく拾い物のエピソードには事欠かない。
今朝も会社の入っているビルのエントランスで、茶色の定期入れを拾った。
しかも落とすところを目撃したから、慌ててその相手を走って追いかけた。
「あの、これ!」
でも私は慌てすぎてしまって躓き、手が滑った。
定期入れがちょっと先へ再び滑り落ちていき、バランスを崩した私の体は……。
呼び止めて振り返ってくれた男の人の腕の中にすっぽりと納まってしまった。
「ひゃあ! すみません!」
私はさらに慌てて男の人から離れ、床に落ちていた定期入れに手を伸ばした。
二つ折りになっていた定期入れが広がる形で持ち上げてしまい、内側に入っていたものがチラッと見えた。
一瞬だったのに目を奪われた。
「綺麗……。」
切り絵が挟まっていた。
綺麗な……青い鳥の。
「あぁ、これのこと?」
持ち主さんが私の手から定期入れをひょいっと持っていき、内側を開いて見せてくれた。
「……あれ?」
そこに挟まっていたのは細かな造作の切り絵の鳥には違いなかったけど……黒一色だ。
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