1 拾う神、お化け屋敷の主と出会う

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「……青……くない……。」 鮮やかな綺麗な青い鳥……に見えたのに……。 「……色が見えたの?」 その声に私は初めてまともに持ち主さんの顔を見上げた。 スラっとして背の高い、スーツ姿のカッコいい人。 私よりは年上なんだろう。 切れ長の目が印象的な、でも優し気な笑みを浮かべたイケメンさんだ。 「あ……はぁ……さっきは青い鳥のように思ったので、びっくりしました。」 イケメンさんは目を見開いたように見えた。 「まずはお礼……だね。 拾ってくれてありがとう。 助かった。」 ニコッとイケメンさんは笑う。 「あ、私も、あの……転ばずに済んで助かりました。 ありがとうございました。」 私も我に返ってお礼を言った。 イケメンさんはすっと名刺を私に差し出す。 中井貴臣。 これがイケメンさんのお名前らしい。 このビルの12階に入っている広告会社にお勤めのようだ。 「私、名刺持ってなくて……。 えっと、神谷といいます。 7階に入っている会社で働いています。」 「7階の……あぁ、そうなんだ。」 中井さんは思い当たったような反応をして、ニコッと笑った。 「神谷さん、ちょっとお願いがあるんだけど……。」 お願い……とは? 「今日、仕事が終わったら、俺に付き合ってくれないかな?」 は? 私はポカンと口を開けて、間抜け面をさらしたと思う。 えっと、初対面の人にこんなこと言われるって……いわゆるナンパでしょうか? 初めてなんだけど……。 「あ、ゴメン。 びっくりしちゃうよね。 ナンパとかじゃないし、不埒なことしようとかも思ってないんだけどさ……。」 中井さんは、まるで私の心を読むかのようにそう言うと、さっきの定期入れをパカッと開いて、あの切り絵をまた見せた。 「この切り絵の作り手のところにね、君を連れて行ってみたいんだ。」 その言葉とともに、私には切り絵の鳥が、鮮やかなブルーに染まり、羽ばたこうとしているように見えた。
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