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初対面でよくも知らない男の人の言うことを聞くなんてどうかしている。
私だって普通にそう思う。
でも、あの青い鳥の切り絵のことはものすごく気になった。
だから思わず頷いてしまい、帰りはビルの1階で待ち合わせることになってしまった。
定時であがってバタバタと荷物を片付け、そそくさと会社をあとにする。
あの切り絵の作り手さんって、どんな人なんだろう。
そして中井さんはどうしてその人のところに私を連れて行こうとしているんだろう。
エレベーターで1階まで下りて、きょろきょろするが、まだ中井さんらしい人はいなかった。
よかった……。
あまり人を待たせるのは好きじゃない。
待つ分には一向に構わないけれど。
「心ー!」
聞き慣れた声に振り返ると、同期で親しくしている幸の姿があった。
「珍しく定時でバタバタ出ていくから、何事かと思ったよー。」
「あぁ、ごめん。
人と待ち合わせてたから、ちょっと急いでたの。」
「へぇ……ここで?」
「そう。」
「神谷さん、お待たせ。」
その時、また違う方向から声が聞こえてドキッとした。
ビルの入り口の方から中井さんはやってきたようだ。
「そんなに待ってないですよ。
……というか、外から来ました?」
「あぁ。俺、営業なんだよね。出先から戻ったんだ。」
私と中井さんの会話を幸は目を丸くしながら見ている。
「会社に戻られるんですよね?
私、別に時間あるので、気にしないでください。」
「いや、直帰予定にしてあるから平気だよ。
……むしろ神谷さんの方が用事があるんじゃない?」
中井さんが幸の方を見てニッコリ笑うと、幸が心なしか赤くなった。
「心ー。邪魔してごめん。デートだったんだねー。」
「え?」
幸の言葉に私はびっくりする。
デートって!
「ち、違う、違う!
えっと、よくわからないんだけど、ちょっと頼まれごとしてて。」
……としか言いようがないんだよね……。
中井さんはクスクス笑いながら、ポケットからすっと名刺を取り出し、朝と同じように幸に渡した。
「神谷さんの同僚の方?」
「は、はい!」
幸はど緊張な様子だ。
「今日はちょっと神谷さんにお願いがあって来てもらったんだけど、大丈夫だったかな?」
「えぇ。別に。心と何か約束があったわけじゃないんです。
こちらこそすみません。
……心、ごめん。また明日ね。」
幸はあたふたと私に手を振り、中井さんに会釈して帰っていった。
うーん……。
中井さんがイケメンさんだから、あんな反応になったのかな?
私が首を傾げていると、中井さんに声をかけられた。
「じゃ、行こうか。
……心ちゃん。」
中井さん、女性の扱いがうまそうだな……なんて、ちょっと警戒してしまった。
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