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ハレー彗星の観測のために集まった天文部員19名は今、部室を兼ねている校内のプラネタリウムで打ち合わせ中だ。
・毛布・飲み物・寝袋を持参する事
・メモを取るためにペンシル型懐中電灯を持参する事
・メモを取るときは暗幕を垂らした机の下に潜り込み、他部員の観測の邪魔をしない事
・屋上から身を乗り出さない事
・三脚とカメラには触らない事
・撮影は副部長の竹良さんと田島先生に限ること、ほかの部員は携帯電話もしくは携帯時計で撮影等はしないこと
などもろもろの説明を田島先生から受けぞろぞろと二列になり屋上へ向かう生徒たちである。
76年ぶりの観測なものだから、日本中がハレー彗星に沸き立っている。
76年前の記録を読むと、観測は冬。
当時の生徒は小さく光る星を見たようだ。
当時は女性部員もいたようで泣く者もいれば、詩が思い浮かんだと勇み足で場を去る者、感動のあまり突っ立ったまま1時間樹氷のように動けずにいた者もいたようす。
今回俺たちはどうなるのか。
屋上に出る。
街の明かりはすっかり消えているものの遠く離れた海の向こうには輝く国際空港の明かりが見える。
西を見ればそびえたつ山々。
今日は新月。
「あ!」
ひゅんと空を駆けた星がいた。
星が降る・・。まさしく屋上一面に輝く星々たち。
その時である
「きゃー!」空から大きな黒い物体が俺たちの視界を遮る。
やべえ!死ぬ!!
視界に入る物体のおよその重さを迫りくる視界の中で計算しようと思った、が間に合わず黒い物体はどしーんと俺と中田、里中の背中に落ちた。
前につんのめりになった俺たちに駆け寄る部員たちである。
床にぶつけた鼻が痛い・・。背中は・・・お・・・重い・・・。
それから暫くして「ぎゃあ!」と叫ぶ声「どっ」と歓声を上げる声が入り乱れるではないか。
「は・・早く降ろして・・」
俺たちは腕を引っ張られ起き上がった。
その先には、俺たちの学校の制服を着た女の子が立っていた。
「すすすすみません!私4年生の花井です・・・が、貴方達はどなた・・?」
「俺たちも4年だけど・・。」
と里中。4クラスしかない上に約4年間この学苑にいるのだからだいたいの顔は解るはずなのに。。
しかし、この女性はなんだ?目に丸いガラスを二つ付けている。
ガラス・・??これはプラスチックだろうか。
そして髪もへんてこりんで二つに分けており前に垂らしている。
・・・
花井さんはじりじりと後方にさがる。
「あなたたち・・誰?ここは・・どこ?」
「ここは・・B学苑の屋上だけど・・。俺は中田、あんたと同じ4年生だ」
俺はじっと花井さんの顔を見た。
誰かを思い出そうとしていた。だれだだれだだれだどこだどこだどこだ
「花井・・ハナエさん?」
花井さんはプラスチックの丸いものをずりおとしながら叫んだ。
「なんでそれおぉぉおっ!」
俺は思い出した。
「あんた、俺のばあちゃんだ」
そう、俺のばあちゃん。
76年前、ハレー彗星を観測し感動のあまり気を失った生徒がいたと。
その生徒は5分で意識を取り戻したが、それ以来女性部員の入部を認めなくなったのだ。
ばあちゃん曰く、感激のあまり気を失い気が付けば男子部員に運ばれている最中だったそうだ。
恥ずかしさがまさり、ハレー彗星の感動も吹っ飛んだと話してくれたっけ。
「ばあちゃん、今は2061年だ」
「ばっばあちゃとはなんにせんろくじゅういち~??」
そのままハナエばあちゃんは倒れこみすぅっと姿を消した。
「な・・なんだあれは・・・」
静まり返った屋上。先生まで呆然と立ち尽くす。
星降る夜。星の代わりに若い時のばあちゃんが降ってきた。
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