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「雨!」  手近の細い窓に、飛びかかるように走り寄る。  ゆっくりと大地を濡らす大粒の沼気が、窓の向こうに踊っていた。 「異常値が出た時に、雨、降ってた?」  急いた息で、人工知能に質問する。 「はい」  秒で返ってきた答えに、アキはきゅっと唇を横に引いた。そうか。不意に、全てが繋がる。雨の日の泣き声に気付いたアキに向けて、この衛星は更なる信号を発した。その理由は、アキが、泣き声の意味を、この衛星の採掘の痛みだと間違えて理解したから。では何故、この衛星は『泣いて』いる? 人間が泣く理由は、痛み、悲しみ、……そして。 「まさか」  小さな声が、響く。雨と共に、アキの耳に今も響く『泣き声』は、『淋しさ』を知らせるこの衛星の、言葉、なのだろうか? 「異常値、収束しました」  人工知能の機械声に、窓の外を確かめる。ゆっくりと降る大粒の雨は、止む気配を見せない。アキのこの理解が、正解なのだろう。  しかしながら。  『淋しい』というこの衛星の感覚を知ったところで、どう対応すれば良いのだろう? 正直、途方に暮れる。ロケット用の燃料を内に隠したこの衛星を見つけた人間達が現れるまで、この衛星はずっと、ある意味孤独に、宇宙空間にいた。その衛星に『賑やかさ』を持ち込んだのも、アキ達人間。衛星に、内部にある燃料原料の枯渇や代替燃料の開発によって人間達が去ることで、再び『孤独』になってしまうという『恐怖』を、与えたのも。だから、理不尽かもしれないけれども、惑星の訴えを何とかしないといけない義務は、アキ達人間側にあるのではないかとアキは思う。だが。全てのものは、ずっと同じままでいることはできない。アキも、病気や怪我でこの衛星を離れなければならない時が必ず来るだろう。アキよりは長いかもしれないが、人工知能にも、衛星が回っている蒼みを帯びた惑星にも、窓のずっと遠くに見える弱い光の恒星にも、寿命はある。この衛星自身にも。 「孤独は、嫌なの?」  ゆっくりと降り続ける雨に、小さく尋ねる。答えは、返ってこない。だが、小さな衛星が考えあぐねていることだけは、アキにもなんとなく理解できた。  どちらかといえば人と交わることが苦手なアキでも、ほんの僅かだけ、面と向かって人と話をしたくなる時がある。それでも。慣れてしまえば、孤独は『淋しい』だけのものではない。大粒の雨に向かって、アキは小さく微笑んで見せた。  そのアキの目の前で、雨が、不意に止む。  理解、して、くれたのかな? ゆっくりと消えてゆく雲を眺めながら、アキは小さく頷いた。
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