おばあちゃんの星

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「まあ、大雨の予報だからな。しょうがないよ」 「そうだな、確実に延期だな」 人気アーティスト「星野ケン」の野外音楽ライブは日本列島に停滞している梅雨前線により、明日の昼公演の順延はほぼ確定といえる状況であった。 まっとうなファンであればがっかりしたり、やきもきしたりするところであるが、友人との電話を終えた 有賀ユースケは 右の口角を上げてニヤリと笑みを浮かべた。 「天はオレに味方したぜ」 彼がコンサートを待ち望んでいなかったワケではない。 しかし 深夜0時を過ぎ、ライブ当日となった今の時点で奇跡的にゲットしたはずのチケットが友人の分も含めて行方不明だとしたらどうだろうか。延期が人の命を救うこともあるのだ。 「ふぅ~~、ちょっと休むか」 友人の電話で中断されるまでの5時間にもわたる捜索で疲れ切ったユースケは冷蔵庫からとり出したコーラを一気に飲み干した。 冷や汗とともに失われていた身体中の水分がシュワシュワと復活していく。 カバン、ポケット、机の上、下、横、天井、およそチケットが存在しそうな空間はすべて探した。 おそらく3回も開いていないドイツ語の辞書の隙間までチェックして見つからないのだとすると、もはや自宅にチケットが存在する可能性は皆無ではないのか。 チケット購入はおよそひと月前。自分の行動を振り返るのには限界がある。 ユースケはベッドにゴロリと横になり、スマホの画面を開いた。 これまでに撮影した写真に手がかりがあるかも知れない。 「ピロン」 スマホ起動時にいくつかの通知が表示される。 どうでもいいSNSのお知らせに、ゲームのイベント情報。 そのなかに気になる単語が目に入った。 『イシュタル彗星が地球に接近』 どこかで聞いた覚えのある名前だ。 通知をタップして開いたニュースの記事によると、22年ぶりに地球に接近した彗星は肉眼で見えるくらいに明るくなり、今夜が見ごろだという。 「22年前・・・・」 ユースケは胸のざわつきの奥に懐かしい顔を見つけた。 「おばあちゃん!」
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