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再開
ただただ生きていても髭は伸びる。
座っているのにも飽きて、寝転がっているうちに眠ってしまっていたらしい。
大きな声で呼びかけられて、目が覚めた。
「すみません、そこのおじいさん!」
はぁ!?
びっくりしてガバリと体を起こす。
「誰がおじいさんだ!」
「え? あ、すみません。白髪だったのでつい」
慌てて、髪の毛を一本抜いてみる。まごう事なき白髪。こんな道半ばで止まったまま、俺は一体何時間寝ていたと言うんだ?
と、一瞬思ったものの、どうでもいいかと投げやりな感情が空っぽの心を支配した。過ぎてしまったものは、しかたがない。
白髪の先には、眼鏡の青年が立っていた。
「ん? どうした?」
「その、これはおじ……おじさんの物ですか?」
青年が取り出して見せたのは、モヤモヤした何か。
「おわ! そりゃあ、俺のじゃねーか!?」
ずいぶん古びているが間違いない。
「やっぱりそうでしたか」
「おう、ありがとな。でも……」
今更これを返してもらっても使い道がない。もう先に進む気にもなれないし。
「これ。見てもらえますか?」
差し出されたのは、モヤモヤした何か。俺の物と似た形をしていた。
「おじさんの物と、途中まででいいですから、同じ形にしたいんです」
青年はそんな事を言った。
「それで、この形を作るコツを教えてもらえないでしょうか?」
まあそれぐらいならと、青年のモヤモヤした何かを受け取った。一度は自分の物を形作ったのだから出来ない訳がない。おぼつかない手つきでボールペンを握り、ペンの先でこねくり回した。
しかし、全く歯が立たない。
「おかしいな、そんな筈ない。一度は自分でやったんだから」
「頑張って下さい」
「おう、ちょっと待ってろよ」
あぐらを掻いてやろうとするが、暗くてよく見えない。
「もっと明るい場所じゃなきゃ駄目だな」
「だったら……あっちがいいんじゃないですか?」
青年が指さした道の先、確かにそちらは明るかった。
「いいか? ここは捻るんじゃなくて突き刺してから――」
結局俺は歩き出した。
年甲斐もなく。
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