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私が家に帰ると、彼は既に一人でワインの瓶を開けていた。
私の存在に気付いた彼はおかえり、と笑顔で言い、私の手にあった紙袋を見て、その笑みをより一層強くした。
友人と遊びに出ていた私は、お土産を買ってくる事を彼と約束していた。
それを楽しみにしていたのだろう。ワインまで開けて、ずっとソワソワとしている、まるで子供のようだ。
何を買ってきたんだい?
彼が耐えきれずそう聞いてきたので、私は紙袋からお土産を取り出した。結構な値段のパイだ。
友人オススメの一品で、私も一つ食べてみたがとても美味しかった。
喜んでくれるかと思ったが、彼は露骨に微妙な表情を浮かべた。聞くと、どうやら甘い物があまり得意ではなかったらしい。そうでなくてもパイとワインは合わないだろう、と渋い顔だ。
私は彼の態度に少しムッとしたが、俯く彼の顔に負けて一言謝り、キッチンから私用のワイングラスを取り出した。
代わりになるか分からないが、せめて開けたワインの相手くらいはしようと思ったのだ。彼は喜んでくれた。
それからお互い、チビチビ飲んでいると、ふいに彼が口を開いた。
僕は甘いのがあまり好きではないが、そんな僕も好きなパイがあるんだ。何か分かる? と私に聞いてきた。
私はワイングラスをテーブルに置き、暫し黙考したが、どうにも下ネタしか考えつかなかった。
思いきって口にしてみたが、彼は笑って否定した。なら、何なんだろう。
私は小首を傾げた。お手上げだ。
彼はそんな私を見てまた笑った。
そして自分のワイングラスを掲げ、私に向けて、差し出してきたのだった。
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