星の夜の僕たち

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 玄関先。少女が奇妙な傘を閉じて袋を外している間、迷子の少年はリュックを背負いなおした。星をいっぱい詰める予定だったそれは、もはやただ大きくて邪魔なだけだった。  その家は、低い柵に囲まれた小さなものだった。庭には芝生が敷いてあり、月光のように白く輝く花や、今まさに降りそそいでいる星のように色とりどりの小さな花がテラコッタの鉢の中で咲きほこっている。赤っぽいレンガの壁には白い斑入りのツタが絡み、ぼんやりとしたカンテラの明かりが優しく通ってきた道を照らしていた。 「ささ、入って入って!」  少しぼろいドアから中へ入ると、ふんわりと甘い香りがする。小さな花が活けられた玄関を通り、木でできた軽いドアを開ける。入ってすぐの壁にはランタンや何かの瓶や、草花の乾燥した束なんかが、棚の中や壁際のあるべき場所にすっぽり収まっていた。きい、と床が小さくきしむ音がした。 「ようこそ。ずいぶん遅かったな」  きょろきょろしていた少年は驚いて声のほうを見た。部屋の奥には古びたテーブルとつぎはぎのソファがあり、ヒゲをたくわえた気難しそうなおじいさんが鷹のような目でこちらを見据えている。テーブルの上には、まるでここに来ることが最初からわかっていたかのように三つのカップと大きなティーポットが置いてあった。思わず足を止めた少年をそのままに、少女はとんとん跳ねるように部屋の奥へ向かい老人の隣に滑り込んだ。 「こんばんは、おじーちゃん。今年も集めてきたよ!」  彼女はそう言って、慣れた様子で老人に革袋を手渡す。いつの間にかその奇妙な袋は満杯になっていて、動くたびにシャラシャラと不思議な音がした。 「ありがとう、アゲヴ」  名前を呼ばれた少女は、少しませた笑みを浮かべた。そして振り返ると、部屋の出入り口に突っ立ったままの少年に手招きした。 「おいで、ぼく! 星をつまみ食いしてみない?」  小さな客人は思わず後ろを振り返ったあと――当然ながら、後ろには誰もいなかった――じっと少女のほうを見、老人を見、恐る恐る歩みを進める。少しシミついたソファのそばまで来たとき、老練な灰色の瞳と視線がぶつかった。ドキリと心臓が跳ねるのに合わせ、体がピタリとその場に縫いつけられてしまった。 「ふふ、鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔しちゃって。リアトラじーちゃん、顔が怖いのよ」 「そうか。……坊や、ほら、おいで」  針のような視線が和らぎ、しわだらけの大きな手が手招きした。今度は引き寄せられるように、ソファの背に触れて――テーブルを通りすぎて――老人が背を預けているソファに手を置き――飴色のいれものを覗きこんだ。
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