【おぼろの桃園】いざ、桃園へ

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【おぼろの桃園】いざ、桃園へ

  笹の葉の上に、きらりと光るものを見つけた。(つゆ)かと見紛(みまが)うけれども、小さな水精(すいしょう)(水晶)の欠片だった。  腹が空いていたので摘まんで食う。その味は八功徳水(はっくどくすい)のように甘くて瑞々しい。きっとこれほど奇麗(きれい)で美味なものはこの世にはない。  ただ――口にするたび優しくてほろ苦い気持ちになる。  逢いたい人が、いる。だれか忘れてしまったけれど。忘れてしまったことだけは忘れられなかった。
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