102人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
【おぼろの桃園】いざ、桃園へ
笹の葉の上に、きらりと光るものを見つけた。露かと見紛うけれども、小さな水精(水晶)の欠片だった。
腹が空いていたので摘まんで食う。その味は八功徳水のように甘くて瑞々しい。きっとこれほど奇麗で美味なものはこの世にはない。
ただ――口にするたび優しくてほろ苦い気持ちになる。
逢いたい人が、いる。だれか忘れてしまったけれど。忘れてしまったことだけは忘れられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!