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黒いもの
「ブラッドさん…ふぁ〜…おはようございます」
寝ぼけ眼を擦りながら彼の姿を見る。いつものように…服を着て…いやいつも通りでは無かった。服を着てないのだ。何故か全裸でこちらにジリジリと近づいてくる。
「す…すぐに終わらせますので」
「怖い怖い怖い」
「黒いものが…いま…ゆ…勇者様の近くに…」
「黒いものを近づけてるのはブラッドさんですよ!」
俺が叫ぶように声を上げて動くと、彼は女子のような悲鳴をあげ、足をジタバタと動かし始めた。
「きゃああああああああ…勇者さまぁああああああ」
「ぎゃああああああああああ」
眼前で揺れるそれを見て俺も悲鳴を上げると、手の甲にカサッと何かが触れる感触が…
「ごごごごご!ゴキゴキゴキ!!」
「「きゃあああああああああ!!」」
拝啓 母上
そちらではゴギブリは出ておりますか?こちらでは2つの黒いものに私は叫びました。
「すみません…私もゴギブリは苦手なんです」
ブラッドさんはちゃんと服を着て、申し訳なさそうになんども頭を下げていた。
「いえ…俺も苦手なんで…でも何で裸だったんですか?」
「浴室に出まして…追い込み倒そうと思ったんですが…中々すばしっこくて…」
「ここ宿屋ですけど…よく他のお客さんに見られませんでしたね」
「そういえば…ここから西にずっと進むとオーガルという魔物被害に悩んでる街が有るらしいので行きますか」
「俺の話を聞いてくれや!切り替えも速いな!!」
という事でその街へと向かうことにした俺達だった。
「ブラッドさん…本当なんですよね?この先に街が有るって」
「ハッッハッハハハ!!!久々に無双だお!!!」
「猛々しいだおだな!というか俺の話聞けや!」
ブラッドさんは相変わらず出てきた魔物を屠り、その白い髭を汚い色へと染めながらずんずんと進んでいく。でも魔物が出てきたということは、そろそろ街が近いという証拠なのかも知れない。
「おい!!お前らかかれ!!」
魔物ではなかった…黒い衣装に身を包み黒い布で顔を覆った5人が俺らを囲んで短刀を構えていた。
「これは…」
「盗賊ですよ…ブラッドさん」
俺には危惧すべき事があった。ブラッドさんは人間に対しては異常な程優しい。やっぱり腐っても聖職者って言うことなのか…だからこそ対人ではその力は…
「このバカ共がぁあああ!!」
「聖職者ぁあああああ!?」
ブラッドさんはその白い髭を揺らしながら一人の腹を殴り吹き飛ばした。
「ちょっちょっちょおおっとおお!!」
「どうされました?勇者様」
「平然とすな!普通に殴っとるやんけ!」
「大丈夫ですよ…殺して”は”いないので」
「その”は”が怖いんだよ!お前の犯罪係数はいくつだコンニャロ!!」
「安心してください…多分…あの感触だと第4肋骨,第5肋骨の骨折ですね…」
「あの感触とか言うな!しかもやけに詳しいな!お前絶対前科あるだろ!!」
「安心してください…戦いが終わった後…治療するつもりです」
「安心してください言い過ぎなんだよ!お前はとにかく明るいあの人なんか?というか優しいのか悪魔なのか分かんなくなってきたよ…」
でも確実に言えることは…コイツがサイコパスだということ。
その事実に身を震わせながらも俺は次々と吹き飛ばされていく黒子達を、可哀想と思い眺めることしか出来なかった。
「んで…なんでこんなことしたんだ?」
「化け物…」
「それは俺じゃなくてあそこでオークをぶっ殺し続けてるジジイな。あの顔見てみろよ…ご満悦って顔してるだろ?殺し続けないと多分生き甲斐を感じられない人なんだよ」
「もっと化け物じゃねぇか!」
俺は最初に号令を出した黒子集団のトップと話をしていた。結局ブラッドさんの圧勝。こうやって縛られている黒子集団は、悔しいのかまだ殴られた痛みが有るのか項垂れていた。
「というか…お前らいい加減マスク取れよ」
俺はそのトップのマスクを取った。その瞬間、あ…と俺は声を漏らしてしまう。美しかったからだ。確かに声が僅かに高いと思っていたけど。まさか女…
「きゃあああああああああ…見ないで見ないで恥ずかしいの!」
「騒がしいな!!」
声を作っていたのか、マスクを外した瞬間声がちゃんと女の子の物になった。空の色に似せて作られたのか、その髪の毛は水色で短く整えられている。睨む時はしっかり目は細くなるが、キョトンとしている時がクリっと目は丸くなる。鼻は高すぎることがない。それでいて低いということもない…ただ少し痩せているのか頬が少しげっそりとしている。歳は16歳と言ったところか。ちゃんと食べなきゃ大きくならねぇぞ?と心配したくなる年頃だ。
「か…かえせよ…どうせ醜い顔だろ?」
「ん?いや?可愛いと思う…でも飯はちゃんと食べなきゃダメだぞ」
彼女はそれだけ聞くとうるせぇと吐き捨てて顔を背ける。その表情は飯が食えないからこんな事をやっているんだ、と言いたげな顔だった。
「じゃあ…お前ら全員さ…オーガルって街まで案内してくれるか?」
「お…お前らオーガルの住民なの…か?」
「ちげぇよ…俺のなま―」
「その人は勇者様です…私はブラッドと申します」
「違う!自己紹介させてくれ!俺の名―」
「勇者だろ?よろしくな…」
「あ…はい。勇者です…そのオーガルの街も魔物被害で困っていると聞いた。だから俺らがその中でも一番偉い魔物を倒そうと思ってな」
「だ!だったら!!あの…オーガル街の地主を殺してくれないか?」
「ん?どうゆうこと!?」
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