いつも優しい神父さん

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いつも優しい神父さん

 空から明かりが射しステンドグラスを通して目に入っていく。眩しさに思わず目を細めるが、それは神からの啓示かと疑うほど色鮮で綺麗なものだった。  その光景は何度も目にしているので慣れているはずなのだが、心を打たれてしまう。 「勇者様…死してしまうとは…おいたわしい…我が主は…もう一度チャンスを与えました。さぁ…いざ行くのです!魔王を倒す旅へ!」  もう一度というのは俺がこの世界に来て何度も死んでいるということを指していた。  この世界はゲームによく出てきそうなRPGの設定が溢れる世界であり、若干19歳の俺は異世界に召喚された。  いきなりの異世界召喚に戸惑っていた俺も二ヶ月で大分慣れた。しかし二ヶ月経ってもいまだゴブリンすら倒せない始末。  勇者と呼ばれているが本当の所はどうなのかとケチを付けたくなっていた。  普通勇者というのはもっと強くて、伝説の装備とかを渡されるものだと思っていたが、まさかの装備ゼロ。身体能力も上がっていない。この世界で勇者は死んでも生き返るというのが唯一の利点であった。  ただそれは地獄の始まりに過ぎず、魔物と戦ったところですぐに殺されるのがオチであった俺は、かれこれ10回以上此処へ訪れている。 「あの〜…どうやったら…強くなれますか?」  神父に何を聞いているんだと言いたくなるが、この世界の住人は何を話しても勇者というだけで希望の籠もった眼差しを俺に向けてくる。何度も死んでいると知っている神父やシスターに聞いたほうが恥もなにもないであろう。 「私は神に仕える身ですので…なんとも言い難いですが…とにかく実践を積むことが大切かと…」 「モンスターとか倒せないんですが…」 「でしたら仲間を探すのが一番かと…」  この街の神父は凄く優しい。もしかしたら神父というのは大体こういうものなのかも知れないが、何度も顔を合わせているため話しやすい部分も多い。  長く白い髭を携えた神父は目を細めて微笑む。祖父のような暖かさを持った優しい目だった。 「勇者様…本日はこの教会で寝泊まりしていっては如何でしょうか? 粗末な物ですが夕飯も出ます故」  どうやら俺の懐事情や、毎日路上で野宿しているという事も、全て知られているようだった。この国の王様に勇者として使命を全うしろと言われたのは良いけど、金もくれないハードモードからの開始だったからな等と、自分の歩んだ人生を感慨深く振り返りその言葉にありがたく甘えさせていただくことにした。  この世界を混沌に陥れている魔王。その魔王を倒さない限り俺は元の世界へは帰れないらしい。果たしてそんな事が叶うのか‥と俺は眠りに着く前に考えてしまう。  外からの悲鳴や魔物の鳴き声で目が醒める。寝惚けていたため初めは酔っぱらいの嘆きにも聞こえたそれは、意識がはっきりしていく毎にクリアに、そして何事かと確実に知らせるものになった。  街が…襲われているんだ…  その事が分かった俺はベッドから降りて急いで外に出た。  無論最初に心配したのは優しくしてくれた神父とシスター達だ。どうやら教会内に人は居ないようで俺は街中を走り回った。  そこで見えたのは負傷する住人。多分住人が屠ったであろうゴブリンや魔物の残骸の数々。それにより俺の不安もどんどん煽られていく。  神父さんに何も恩返し出来てねぇよ。あんなに優しくしてくれたのに此処でお別れとか絶対ありえねぇ。頼むから…生きててくれ…  突然爆発に似た衝撃が俺の頬を掠って音になって耳に届く。そしてある声も一緒に耳に入っていた。 「貴様らに…神など居らぬわ!地獄へ堕ちろクソ野郎ども」  強者のオーラを漂わせるその台詞は、いつも優しい神父さんから発せられたもので、彼の足元には無数の骸が転がっている。  んんん?  いつもは服に隠れている腕撓骨筋。砲弾のような三角筋と上腕二頭筋。見ただけで思わず撫ぜたくなる突出した僧帽筋、肉のグランドキャニオン大胸筋。チョコレートのように複数に割れている腹筋。  あれぇ? 誰?  その姿まさに鬼神と謳いたくなるほどその男は強かった。魔法を一切使わないで魔物の群れと対峙している。一番驚いたのはその言葉遣いだ。いつも震えるような小さい声で、話しかけてくるあの神父とは違う。今…目の前に戦っている男は誰なのか? 「ハッハッハ!全員でかかってこい!血祭りじゃ!」  聖職者が血祭りとか言わないで!!! 「愉快愉快愉快!!!ひれ伏せ!泣いて詫びろ!許さないがな!!!ハッハッハ!」  最早悪役!!!一番の魔王はアンタだろ!神は許してくれますって台詞どこやった⁉  魔物を素手で屠り続ける彼を白い目で見つめていると、どうやら彼も俺の存在に気づいたらしくこちらに目を向けてきた。 「あ…これは勇者様…夜遅くに起こして申し訳有りま…クソ蛆虫共が!!うざってぇんだよ!…申し訳有りません」 「二面性!二面性が浮き彫り立ってますよ!?」  俺の異世界ライフはどうやらここから始まるらしい。
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