仲間

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仲間

 なんて清々しい朝なんだろう。今日も天気は晴れだ。朝日はカーテンの隙間から顔を覗かせ、細いか太いかわからないちょうど良い大きさの線が俺の顔に降りかかる。  昨日のことはどうやら夢らしい。こんなにも綺麗な朝を迎えられるはずもない。更に言えばあの優しい神父さんが「許しを乞え!」とか言うはずないもん。 「お目覚めですか勇者様。昨夜はよく眠れましたか?」  噂をするとなんとやら。神父さんの登場だ。いつもと変わらないその優しい眼差しからは感じられない昨夜の狂気は、俺の心の中に眠る 闇が見せる錯覚だったと思わせた。 「はい。なんか変な夢を見てしまって…突然なんですが、神父さんは悪いことをしてしまった物を許してくれたりするんでしょうか?ちょっと言葉足らずだったかもしれません…」 「いえ…誰にだってどんな者にだって過ちはあるものです。神の許しはどんなものにも共通してあるものです。それがどんな過ちであれ…神が許すというのでしたら。私も許さないわけにはいきません」  彼は眉一つ動かさず優しく言い放った。その回答は俺の疑心を一気に払拭させる。  やはり昨夜の神父さんは俺の夢か幻だったんだ。何馬鹿な事聞いてんだろう。  回答を聞いた俺は彼とシスター達に感謝を告げて教会の扉を開けた。 「え?」  その異臭と異様な光景で俺は口をあんぐり開けたまま、臭気に涙腺も刺激されて目が潤っていく。山のように積まれた魔物の死体。否、残骸と言ったほうが良いのだろう‥最早それは魔物と言って良いのだろうかと疑うほど原型を留めていないものばかりだ。 「うっ…」   急に舞い込んでくる嘔吐感が俺の掌を口元に持っていかせる。その時だ…微かに動いたその山からゴブリンが出てきて襲いかかった。 「ぐぎゃあぁぁあぁ!」  まずい…また殺られる… 「クソゴミ発見!!!ふん!!」  頭部がいきなり四散するゴブリン、その飛び散る体液が俺の服にかかっていく。そしてその匂いは完全に俺を吐かせた。 「おぉぉえっ…」  なんだこれ…クソ気持ち悪い…すみません…教会で吐いてしまうなんて… 「大丈夫ですか?すぐに浴室へ案内いたしますね」  やはり昨夜のあの神父は幻でもないらしい。なんでか妙に胸がスッキリしている。  身体に付いた匂いも魔物の体液も全て洗い流すと、神父さんはまた優しい笑顔で俺を出迎え紅茶を用意していた。 「驚かせてしまいましたね」  この話の流れから来る話と言えばその異常な戦闘能力の高さの秘密を晒すものだろう。あと異常性も。 「ええ…正直驚きすぎて今も怖いくらいです」 「ゴブリンは生命力の高い個体がたまにいるんですよ」 「違う…違う…違う違う…オレイチ驚きが大きいのはアンタよ!アンタなの!なにそのはて?って表情」 「いえ…私なにかしてましたか?」 「めっちゃしてたわ!多重人格ですか!?なんであんなに強くて残虐なんだよ!というかいつもの優しさは何処行ったんだよ!?」 「ああ…つい」 「息子の弁当に嫌いなものを入れた時のお母さんの反応をヤメい!あの死体の山は!?なぜあそこに?」 「それは…見世物と…午後片付けようかなと思いまして」 「そこなんだよ!考えがサイコパスなんだよ!はて?じゃねぇよ!見世物にならんわ!臭いだけなんだよ」  まさかこんな人だったとはと俺は頭を抱える。それでもこの人に強さの秘密を聞きたいと言う気持ちが先行していった。 「あの強さはどういうことなんですか!?なんであんなチート級の強さなんですか?いやはて…?じゃなくて!」 「…ふむ…お祈り?」 「自分でもよく分かんないなら言わないほうが良いですよ。お祈りで強くなるとかマジで分かんないんですけど…この世界最強は神父とシスターですか?」 「かも?」 「かも?じゃねぇよ!女子高生感出すな!」  目の前の老人。神父は白くて長い髭を指でくるくると巻き取り始めた。 「ウチはぁ元々ぉ強かったしぃ」 「小文字を使うな。あとギャルかよ!」  だがこれは…チャンスだ。この人を仲間にすれば俺の旅を進められる。もしかしたら魔王も倒せるかも知れない。  ただ…この人にも仕事というのはある。やはり神に仕えるというのは仕事を放棄できないであろう。 「仲―」 「なります」 「食い気味!?」  なんでだ…この人…めちゃくちゃ乗り気じゃねぇか!!普通… 「私のような物は戦闘に不向きですし…なにより神のご意思に反しますので…」  とか言うものじゃねぇの!?このジジイ…ただの戦闘狂じゃねぇか! 「退屈してたんですよね…お祈りとか」 「聖職者にあるまじき言動!!!!」  こうして俺は神父という最強の仲間を手に入れることになった。
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