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・・・・・
「……さん。…イさん。カムイさん!」
「む?」
「え~。どうやら、カムイさんは居眠りをしてしまったようです」
背広をきちんと着こなした中年男性が状況を説明すると、奥からどっと笑い声が聞こえてきた。
カムイは少し寝ぼけていたが、ここがテレビスタジオで今自分は討論番組の出演者として、この席に座っていることを思い出した。
陽気な太陽の日差しだと思っていたものが実はスタジオの照明でガッカリした。
「こりゃ、失敬。うっかり、寝てしまったわ。それで何の話だったかな」
観客席から再び笑い声が起こる。さっきの司会者も笑いを押さえているようでエクボだけが反応していた。
他の共演者も大方寛容な反応で助かったが、ひとりだけカムイに対して渋い顔を向けている女性がいた。
スタジオは議論しやすいようにU字型のテーブルが置いてあった。真ん中の席には司会者とその補助する女性アナウンサーが座り、左右の席には対極する意見を持つ者たちがそれぞれ固まって座っていた。
つまり、自分と違う意見を持つ相手が正面にいるわけだが、カムイの正面はその渋い顔をした女性であった。
女性の名はメアリーという。年はカムイと同じぐらいだが今回の討論会以外でも様々なところで意見の対立をしている相手でもあった。
視聴者はいつもテレビで一緒に見かけるカムイとメアリーは日常から近しい関係だと勘違いしているらしい。きっと、今回の討論のやり取りもただの痴話喧嘩のようにしか見えていないのだろう。
けれども、最近のメアリーの態度は以前とは違っているとカムイは感じていた。
「いくら、興味がない内容だからといって、寝てしまうのは本当に失礼ですよ。確かに我が国が宇宙人や妖怪などと手を結んでいるといったデマ情報を信じるなんて正気を疑うわ」
「妖怪…」
「ええ、今隣国を中心に根も葉もない噂が流れています。その内容は今回の月の大接近が我が国と同盟を結んだ人ならざる者たちによる他国への威圧行為だというのです」
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