2話 血なき代理戦争

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 その噂は以前から耳にしていた。  その話を嬉しそうに語っていたリーバの顔を思い出す。基本的に何事にも無関心な子だが妖怪のことには過剰な反応を見せる。  あれからリーバとは近しい関係になったが果たして妖怪の存在があの子の見えざる葛藤を紐解くカギになるのだろうか。 (これには不思議な縁があるように見える。接近した月とリーバ、この関係が全く無関係だとは思わないと考えてしまうのだ。そして、その中にいる私もか…)  メアリーの隣にいた大御所の現役俳優が手を上げてこの話題を止めた。  演者ながら社会情勢に強い感心を持つ彼はこの討論会メンバーのひとりであった。  彼の言うことには今回の論点から離れていると指摘した。 「今回のテーマは代理戦争の必要性だったはずだ。現状、我々の国は代理戦争による経済利益で潤っているといっても過言ではないでしょう。しかし、頻繁に戦争を仕掛けようとするこの国のスタンスに疑問を持っている人はカムイ氏など少なからずいることも事実だ」  血なき代理戦争。その昔、ある国で軍事科学の発達により機械兵が主体となった軍隊が同じく盗んだ技術で機械兵の部隊を造り上げたテロ組織を壊滅させた歴史があった。  しかし、この戦争で人々が注目したのはテロ組織に勝利したことではなく誰ひとりも人間の死者が出なかったことだった。  テロ組織は自分たちの機械兵が全滅した時点で抵抗することなく全員が降伏したのであった。彼らが籠城したアジトの周辺に隙間なく囲んだ千を越える機械兵の大軍が敵の反逆する意思をへし折ったのである。  国軍は無抵抗の敵を殲滅(せんめつ)することができずに降伏を認めたところメディアが大々的に称賛したのである。  『○○軍機械兵 血なき戦いに勝利!』このような当時の新聞の見出しが現在の歴史の教育書には載ってある。  その1年後、戦争の概念を大きく変えようとした事件が起きた。
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