2話 血なき代理戦争

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 今、思えばこの瞬間から人々は禁忌とされた戦争と機械兵による代理戦争、そして娯楽としてのスポーツの区別が麻痺してきたのだと思える。  WRFA主催の大イベントは盛り上がりとしては成功したが、これで両国が仲直りしたわけではなかった。  しかし、この大イベントは両国の間で年に一回の伝統行事になっていったのである。  また、他国でもチームを組んで兵略を用いた戦争もどきの闘いが一気に流行した。  そして、現在は国の軍にスポンサーがつくようになった。つまり、あれから銃器使用の代理戦争が世界に認められたのである。  相手国を憎んで戦争を仕掛けるのではない。戦争が起きた方が利益が生じるから戦うのである。  カムイはその道理を嫌悪していた。  若い頃は軍人に憧れて入隊した彼だったが、それなりの地位に就いて内情を知ったとき軍に失望をした。  憧れの反動からか軍を辞めた今は世間でも有名な代理戦争嫌いな人間になってしまった。 「人々が戦争を好み、軍人の仕事が子どもにとって一番人気の職業となったことは機械兵がなかった時代の人々が知ったらどんなに悲しむのだろうか」  討論番組で様々な意見が飛び交うなかでカムイの言葉に皆の注目を集めた。  それに対して最初に噛みついたのが目の前にいるメアリーであった。 「昔の野蛮な戦争とは違います。今の代理戦争は血を流さずに人々を楽しませる興行なものへと進化したのです」 「でも、争いを好む人種となったのは間違いないであろう」 「それは飛躍すぎた考えだとは思いますが、たとえそうであっても格闘技は昔の時代から人気があったでしょ?」 「それだよ。現代の人間は戦争とプロレスを同じものとして見ている。我々はそのことを正面から捉え反省するべきだ」 「違います。戦争ではなく代理戦争です」
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