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いくら話しても聞く耳を持ってくれないことはわかっている。
メアリーが変わってしまった原因は分かっているつもりだった。
それは月が太陽を抜いて空で一番でかい存在になってから彼女は攻撃的になった。
彼女だけでなく世界中の人々がおかしくなっている。いつもは穏やかな雰囲気を見せている凪の海の人たちでさえピリピリとした場面になることが何回かあった。
月が接近して2ヶ月、それ以上の危機が迫ってこないことから人々は日常の生活を取り戻そうとしていた。
徐々に活動停止していた工場が再開し始めて物流も回ってきた。最初の頃よりはだいぶ混乱は収まった。
これは人間の適応力というよりも現実から目を背けた行為という言い方のほうが正しいと思われる。
依然として月が地球に落下する可能性は大いにあるのに、人はまるで他人事のようにそれを扱う。
口では不安というが月が落ちるとしたら目の前ではなくて別の場所で自分は最悪の場面に出くわすはずがないと意識の水面下では思っている。
浅はかな考え方に見えるが恐怖は人を縛りつける。だから、それを排除しなければ人は活動ができない。
しかし、今回は完全にそれを排除するのには規模が大きすぎた。
巨大な月が上空を通過する度に人々はその重圧を受けなければならない。目を閉じようとも眩い月光が包み込み捕らえる。
そして、そのストレスは人を攻撃的にさせる。
メアリーの場合、その感情が顕著に見られた。
「さっき『独り身』と言いましたよね。あなたにはお子さんがいて、なぜが突然家を出て行ったと聞きました。それはあなたの考えの押し付けが嫌だったからではないんでしょうかね?」
「ああ!?」
カムイは最も触れられたくない話題についテーブルをバンッと強く叩いてしまった。
この場にいたもの全員が驚愕した。とてもカムイのイメージとはかけ離れた行為だったからである。
つまり、カムイもまた月の影響を受けている者のひとりであった。
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