3話 あやかしの術

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3話 あやかしの術

 まだまだ、月が沈まない夜の街。その道路の中央を堂々と歩く者の名は妖狐のワカキツネといい、親から授けられた名はケンタロウである。  ケンタロウはリーバに自分のことを妖怪だと言ったが正確には妖狐の加護を受けた人間の子孫である。  とはいえ、鉄を握り潰せる怪力と人を惑わす術は本家本元に近い力を持っている。  『ワカキツネ』が大人になれば『キツネ』という妖狐一族の頭となり、自分に孫ができれば『ロウキツネ』となり妖狐一族を支える知恵者となる。  はるか昔、妖怪達が地球から消え去るときに妖怪と深交ある一部の人間たちも共に月へと移り住むことを選んだ。  その者たちは妖怪と同じ大地の上で住むことになったが、同じ屋根の下で生活をしているわけではない。前と変わらず妖怪のテリトリーに踏み込むことを禁じ、人ならざるものに対して畏怖(いふ)の念を忘れずに細々と暮らしていた。  しかし、一方で妖怪のなかには理不尽に地球から追い出されたと考え、その原因は人間だと憎んでいる輩もいる。  そこで、月に住むことにした人間たちは妖怪から無惨に襲われないために善なる妖狐から力を授かった。それが妖狐一族の始まりである。  ワカキツネのケンタロウは産まれたときから妖狐の力を授けられて、それが特別なものだと自覚したときには周りに対して自分のことを人間以上の存在だと豪語していた。  月の人間は皆ケンタロウに対して平伏していたし、人間の里に妖怪が襲ってきても撃退できた。その事実はますます自分を強い妖怪と肩を並べられる存在だと思うようになった。  だから、さっきのリーバの態度が気に入らなかった。弱者は恐怖で強者を見上げることもできないような上下関係でなければならない。  しかし、あの時のリーバの感嘆とした反応には余裕な態度を感じられた。  リーバが恐怖しなかった要因は機械兵だと思われる。あの鎧が恐怖を弾いて人間の安心を守っている。
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