1話 妖怪妖狐の襲来

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 この街に住む、コラルという幼い少年はうるさい騒音のせいで目が覚めてしまった。  コラルは外の様子が気になったが、先日も夜ふかしをして母親にこっぴどく怒られたばかりであった。  なので、起きていることがバレないように部屋の明かりをつけずに窓からこっそりと覗いた。  外は月明かりで辺りの様子がよく分かった。どうやら、機械兵が大勢いて何かを必死に探しているかのようであった。  そんななかで、コラルは目を疑うものを見つけた。小さい人影が屋根の上を颯爽(さっそう)と駆け巡っていたのである。  あれは機械兵の影ではない。その人影は自分と年の近い子どもだと思われた。  そのまま目で追いかけていたら、その影が突然ピタリと止まり、こっちを振り向いたように見えた。  それから、信じられないことが起きた。その影が自分に向けて手を振ってきたのである。  コラルはビックリして目が大きく開いた。  こっちは電気がついていない窓から覗いているので、あっちから見れば真っ暗なはずであった。それに加えて、離れたところにいる自分の視線に気づくなんてありえない。  コラルは目を擦って、影をよく見ようとした。しかし、影は消えていた。  人影がいないと知ると、少年はあくびをした。再び眠くなったのだった。  きっと、あの影は寝ぼけて見えたものだろう。  コラルはライトアップされている時計塔の時刻を確認すると深夜2時であった。  ラハンの街の中心にあるのは一際目立つ古めかしい時計塔である。  塔の全長は93.6メートルで、東西南北全ての方角に向けて設置された四面の大時計は直径7メートルと大きいものであった。  ラハンの地形は時計塔を頂点として、山のように隆起(りゅうき)している。また、時計塔よりも高い建築物がないので、人々は街のどこからでも時計塔の時間を確認することができた。  いわば、時計塔はラハンのシンボルであり、観光スポットでもあった。  とはいっても、この時計塔に歴史的価値はない。  これは、とある物好きな人間が今は消えつつある前世紀の風景を残したいと願って建てたものであった。  そして今、時計塔の下にはこの街周辺にいる機械兵集団を指揮する隊長とひとりの部下がいた。   「リーバ隊長に報告。未だターゲットは見つかっていません。もしかしたら、住民を人質にして民家に立て籠っている可能性あり。捜索範囲を民家のなかまで広げてはいかがでしょうか?」
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