1話 妖怪妖狐の襲来

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 リーバは、少しの間、黙って考えたが「それはない」と言って部下の提案を却下した。 「しかし、この小さな街で未だに手掛かりがひとつもありません。ですから、そう外れた考えではないかと。もしくは、別の街にいるのかも知れません」 「別の街ならば、そこの担当の部隊に任せればいい。もし、ここにいるのなら、我々の包囲網に引っ掛かっていないだけだろう」    部下はリーバ隊長の確信を持った物言いに、素直に頷くことができなかった。  なぜなら、この作戦は国の全軍を出動させた大規模な人海戦術でおこなわれていたからだった。  だけど、おかしな話で捜索対象の詳しい情報は教えてもらっていない。聞けば、人ならざる者たちで、見れば分かるということだった。   「いいかな。奴らにとって我々は驚異を感じる敵ではない。つまり、わざわざ人質を取る必要がない。むしろ恥なだけだ」 「そ、それは、今メディアが騒いでいる、本当に宇宙人が襲来してきたのですか?」  部下の言葉には怯えがあった。  ちょうど、2ヶ月前のことだった。ありふれた平穏な一日が終わる頃に、何の前触れもなく月は地球に接近した。  最初は誰も気づいていなかった。ゆっくりとしかし確実に月の球体が大きくなっていった。  …いや、人が寝て起きたときには、月が地球の間近まで来ていたことからありえない速度で移動していたに違いない。  とにかく、朝が来たのに空は暗く、太陽も隠れて月が空一面を独占した。  地上から、たった上空700キロメートルに居座った月は誰もが尻込みした。  すぐそこにある死を意識せざる得なくて、しかも見える空の8割以上が月が覆うスケールならば、恐怖を通り越して笑ってしまう者も少なくなかったらしい。  今まで、空には太陽以上の大きい存在がなかった。だから、巨大な月が放つ威圧感がより重く感じたのである。  月が照らす光は不気味に明るく、これは太陽光の反射ではなく、月自体が発光しているのではないかと、大学の教授がテレビで発言していた。  また、月が地球を公転するスピードが大幅に速まった。そのため、1日だけでも数回は日食が来て、そのたびに空は闇に呑まれた。  夜が多くなり、生活リズムが崩れて体調不良におちいる人々が急増している。暴力的な犯罪も増えて、人々の心はすさんでいた。
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