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国は総力をあげて、この前代未聞の世界の危機を乗り越えようと取り組んでいる。
そして、この怪奇現象を引き起こした犯人がここに潜伏しているという情報が流れてきた。
しかし、その情報には相手の正体まではわかっていなかった。
「私は妖怪の仕業だと思うな」
リーバは独り言のようにつぶやいた。それを聞いて部下は曖昧に返事するしかなかった。
隊長がオカルト好きなのは仲間内で有名な話であった。しかし、普段は常識人の隊長が妖怪のことになると、人が変わるので避けたい話題でもあった。
よくリーバは妖怪に会いたいと周りに話す。それを周りが冗談だと捉えて笑ってしまうと、不機嫌になってしまう。
そうなると面倒なので部下は隊長に妖怪の話題を触れさせたくなかった。
「そ、それにしても、どこからの情報なんですかね?敵の正体がわからないのに場所だけを教えるなんて胡散臭いですよ」
「…分からない。もしかしたら、上の人たちは私たちに相手の素性を隠しているのかも」
「それをする意味ってありますかね?」
どうやら、リーバは話題を変えられたことに気がついていないらしい。
部下は安堵をした。
「そういえば、君はここらへんに住んでいるんだっけ?私は前からこの『カムイの時計塔』を訪れてみたかった」
「そうですか?私は金をかけて建てるほどのものとは思いませんが」
カムイとはこの時計塔を建てた人物のことである。元軍人でもある彼はリーバと親交があった。
しかし、部下はそれを知らなかった。
それよりも、部下は時計塔の前にある公園を見たときにふと違和感を感じたのだった。
ベンチの隣にあるポリバケツが気になった。
「どうした」
「えーと、今の時代にポリバケツがあるのが不思議で。あんなの前からあったかな?」
「古い街並みに合わせるために設置したのではないのか?」
「いいえ、そんなことはないですよ」
昔、ポリバケツとはゴミを入れるために設置されたものだった。だけど、カラスがゴミを漁ったり、通りすがりの人が勝手に家庭ゴミを大量に捨てることがあり、ポリバケツの周辺がゴミで溢れてしまうことがあった。
そうなると、当時の人々はポリバケツ=不潔なものであるというイメージがついていた。
しかし、この未来の世界では全ての人間が私たちよりも潔癖気味である。だから、なるべく不潔をイメージするものはなくしたかった。
そこで発明されたのが移動式ごみ収集ロボット『クリーン君』だった。
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