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時計塔の屋上は頑丈な柵で囲まれた展望台であった。ここからだと街全体を見渡すことができる。
そこに着地したリーバは再び月に目を向けた。地上からそんなに高く上がったわけでもないのに、月がさらに大きく見えた。
この月の輝きは太陽よりも謙遜で奥ゆかしい。だけど、そんな静寂な明かりの中には狂気が潜んでおり、ずっと見続けていると心が狂いそうであった。
しかし、リーバは前々からそんな月が近づくことを心のどこかで望んでいた気がした。
リーバは月に注目し過ぎて背後に回っていた狐面の子の存在に気づかなかった。
そして、彼の斬撃を簡単に許してしまった。両足を切断された機械兵の体は地面に這いつくばるしかなかった。
狐面の子はリーバに近づいて顔を覗き込んで来た。仮面越しでも彼が笑っているのだとすぐに分かった。
「そんなに月が気になるの?…でも、わかるよ!僕でさえ、しり込みしそうになる圧倒的存在感!それでもって、神秘的な美しさに心奪われる。この月こそが妖怪を象徴するものだよ!」
狐面の子は、まるで月が愛おしくて抱き締めるかのように両腕を空に向けて広げた。
その異常な興奮と子どもらしからぬ高笑いに、リーバは声をかけることができなかった。
「ところで、君の名前は?」
「…リーバという」
「リーバは妖怪に興味があるの?」
「ど、どうして?」
「だって、聞きたいことが月のことじゃなくて僕自身のことだったもん。いきなり『妖怪か?』なんていうからビックリしちゃった。ほら、せっかく妖怪に会えたんだから他に聞きたいことはないの?」
狐面の子は照れている様子をみせたが、挙動が演技くさかった。
「私も君のことを何と呼べばいいのかな?」
「僕?本名じゃないけど、周りからは『ワカキツネ』と呼ばれいるよ。大人になれば『キツネ』の名を襲名して、最後には賢人である『ロウキツネ』になる者さ」
「ワカキツネ?ロウキツネ?それは何なの…」
リーバの質問にワカキツネは手のひらで止めた。
そして、彼の顔は月とは真逆の方角を向いていた。
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