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栗山の事情
栗山修司は殺し屋だ。
しかし、事情を知らない一般人達がイメージする
殺し屋とは少し違う。
葉巻を咥えて、
小洒落た事務所で依頼を直々に聞いたりはしない。
専門の依頼受付会社があり、
そこに所属する殺し屋達が会社からメールで報された人物を殺す。
殺し屋は事情を知ることもないし、
殺し方も要望を聞いてくれる。
ある意味“便利屋”なのだ。
栗山も、
名前は大々的に言えないが
業界シェア一位の殺し屋派遣会社に所属している。
栗山はその中でも一目置かれるほどの実力者でもある。
そんな栗山は今、とても困ったいた。
焦ってもいる。
理由は、
今背中に押し付けられている銃ではない。
銃を押し付けてくる者の
要求だ。
○
どうしてこうなった。
もう何回も己に問いかけている。
しかし、状況は悪化するばかり。
「おい、決めたのか?12時までだぞ」
背中に銃を押し付けてくる男が
焦りを隠す様子もなく、聞いてくる。
「分かってる。しかし今日は暑いな」
こちらも余裕は無いのだが、
それを表に出したら交渉は負けだ。
ジーンジンジン
蝉が決断を急かすように鳴く。
「暑いだ?随分と余裕だな?」
「お前は余裕が無さ過ぎるように見えるがね」
「… お前は早く決断するんだな」
こいつは、こいつらは俺の家族を
人質にしている。
要求は、○○議員の殺害。
家族が助かるなら、
この世の議員全員殺してやっても良い。
だが出来ない。
会社に所属している殺し屋の俺は
勝手に殺しをすることは出来ない。
会社の命令に完璧に従う、殺戮マシン。
それが売りだからだ。
日頃から人を殺して回ってる変態は
必要とされない。
しばらく無言で駅前通りを
目的無くさ迷う。
会社の許可無く人を殺せない事を
こいつに知られたら家族がどうなるか
分かったもんじゃない。
考えるだけで嫌な汗が吹き出る。
「チッ!暑いなぁ…」
男は銃を押し付けてたまま時計を確認する。
「もう11:30じゃねえか」
「なんだ?タイムリミットでもあるのか?」
「ご明察、12:00きっかりまでにお前の承諾が無きゃ俺がヤバいんだよ!」
こいつ、焦ってるからとは言え
事情を明かすとはほぼ素人だな。
少し余裕が戻る。
ジーンジンジン
蝉の声が俺に焦りを戻してくる。
素人なら逆に何しでかすか分からない。
12:00までに何とかしなきゃな。
せめて会社と連絡が取れれば。
「おい、ファミレス入るぞ」
返事の前に男は既に体を
ファミレスへ向けていた。
まあ、賑わう場所での暗殺は慣れている。
情報をギリギリまで引き出して、
こいつを殺す。
カランカラン
ファミレスの中はあまり人がいない。
好都合だ。
男は抜かり無く銃をこちらに向けてくる。
しかし持ち方は素人同然。
焦りを与える蝉の声、
ファミレスの中ではもう聞こえない。
二人が席に着いたのは
ちょうど
11:40
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