土手で星空を見ながらショパンを聴いた

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 バレンボイムの演奏は、辻井伸行よりもゆっくりだった。  ふーん、らんちゃんってこれぐらいのテンポが好きなんだ。  辻井伸行の演奏しか聴いたことがない僕には、少し遅すぎるように感じられた。  あと四分もあるのか。  もうリベンジできたことにして、聴くのやめちゃおうかな。  ふと、らんちゃんとのデートの様子が思い浮かんだ。  そういえば、僕の歩くスピードが速いって、いつもぶうぶう文句言ってたな。  文句を言ってる顔がかわいくて何とも思ってなかったけど、スピード感が合わないことって本当に嫌だったのかもしれない。  バレンボイムを聴きながら、僕はいつの間にか、らんちゃんが好きなスピード感を自分も心地よく感じたいと思っていた。  ゆったりと流れるメロディーに意識を集中して、ありのまま受け入れようとした。  動画が終わって静かになると、いつもの星空が目の前に戻ってきた。  僕はスマホをポケットにしまいながら、今日は自転車を少しゆっくり漕いで帰ろう、と思った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加