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バレンボイムの演奏は、辻井伸行よりもゆっくりだった。
ふーん、らんちゃんってこれぐらいのテンポが好きなんだ。
辻井伸行の演奏しか聴いたことがない僕には、少し遅すぎるように感じられた。
あと四分もあるのか。
もうリベンジできたことにして、聴くのやめちゃおうかな。
ふと、らんちゃんとのデートの様子が思い浮かんだ。
そういえば、僕の歩くスピードが速いって、いつもぶうぶう文句言ってたな。
文句を言ってる顔がかわいくて何とも思ってなかったけど、スピード感が合わないことって本当に嫌だったのかもしれない。
バレンボイムを聴きながら、僕はいつの間にか、らんちゃんが好きなスピード感を自分も心地よく感じたいと思っていた。
ゆったりと流れるメロディーに意識を集中して、ありのまま受け入れようとした。
動画が終わって静かになると、いつもの星空が目の前に戻ってきた。
僕はスマホをポケットにしまいながら、今日は自転車を少しゆっくり漕いで帰ろう、と思った。
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