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「な……なにをいきなり、訳の分かんないこと……煽るとか、なんだよそれ。ありえねえって……俺なんかのどこに煽り要素があるってんだよ」
「煽り要素だらけだろうが」
「は? だらけって……」
柊人の睨むような目線の気迫に押されて語尾を飲み込んだものの、微妙に論点をずらした発言で何とか優位に立とうとする。
「……つか、おまえこそ、聖人みたいなツラしてそういう欲求があるそぶりなんか今まで一度も見せなかったくせに、いきなりこんな生々しいこと言ってくんのマジで反則すぎんだろ。唐突過ぎてビビるっての……」
その言葉に柊人は目を丸くすると、呆れたように肩をすくめた。
「唐突? なに言ってんだよ。思いっきりやらかしてただろうが。おまえが見ようとしてなかっただけじゃねえの?」
「やらかしてたって……」
言いかけた途端、肩を強くつかまれた夜のことが突然頭によみがえってきて、坂本は言葉を飲み込んだ。
柊人はそんな坂本のことを、恨みがましい目でじっと見つめる。
「聖人みたいに無欲な男子高校生とか、そんなもんがこの世に存在するわけがねえだろうが。虫じゃねえんだからフツーに煩悩ありまくりなんだよ。ていうか、んなこと言ったらおまえの方こそ、そういうのが全くないように俺には見えてたけどな」
その言葉にドキッとしたような顔で動きを止めると、坂本は気まずそうに目線を流す。
「……ねえよ」
「え?」
「確かに、俺にはそういうのが、ない」
戸惑ったような表情で動きを止めている柊人を横目でちらりと見やると、坂本は言いにくそうに言葉を継ぐ。
「精通前にいきなり輪姦中出しされた人間だかんな。順番すっ飛ばされたせいで頭がおかしくなったのか、自分からそういう気持ちになったこととかが一度もねえんだよ。仕事で客にいじられりゃイったり出したりフツーにできっけど、ムラムラする感じとか自分でいじるやり方とか、いまだによくわかんねえ。だからおまえの気持ちも正直よくわかんねえし、おまえがそういうのをガマンしてたってことも、気づいてやれなかったんだと思う……ゴメン」
そう言って頭を下げる坂本を何とも言えない表情で見つめていた柊人だったが、耐え切れなくなったように腕を伸ばすと、再度、無言で坂本を抱きしめた。
坂本は目を丸くしたものの、今度は拒否しなかった。柊人に引き寄せられるままに体を密着させると、どこかぼうぜんと中空を眺めやる。
「俺の方こそ……ゴメン」
ややあって、柊人が絞り出すように言葉を発した。
「なんか、俺……舞い上がってた。はっきり拒否されなかったってだけで、付き合うとも何とも言われてねえのに、一人で勝手にうかれて、おかしな妄想働かせて……キモかったよな。本当に、ゴメン」
そこまで言うと、ハッとしたように息をのむ。
「あっ……、付き合ってもいねえ相手に、こんなマネされんのも嫌だよな。ゴメ……」
そう言いながら慌てて体を離そうとする柊人の背に、坂本はそっと腕をまわした。
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