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「……いいよ」  突然の大胆な行動に目を丸くして固まった柊人の胸に、坂本は自分から頬をよせて目を閉じる。 「俺、せーよくとかはよくわかんない人だけど、おまえとこうしてくっついてんのは、嫌いじゃない。おまえの体温とか、においとかを感じてると、なんつーか……安心する」  柊人は息をのんでから、坂本の細い体に恐る恐る腕を回し、その言葉にこたえるようにできるだけ優しく抱きしめ返す。  柊人の温もりを全身で感じながら、坂本は、ささやくように言葉をつづけた。 「俺は……いろんなとこが壊れちゃってる人間なんで、付き合うって言われてもなにをどうすんのかよくわかんねえし、おまえの気持ちもちゃんとわかってやれねえし、あんま、まともな反応とかが期待できないと思うけど……そんな人間でも、本当に、いいの?」  柊人は溢れ出しそうになる感情を必死で押しとどめながら、短い言葉に万感の思いを託す。 「……いい。全然かまわない。つか、よすぎる。一生、大事にする」  言いながら、坂本を抱きしめる腕に力をこめたが、その拍子に痩せて骨ばった感触が腕に突き刺さり、柊人はハッとしたように動きを止めた。しばらくの間、考え込むようにそのまま動きを止めていたが、ややあってなにを決心したのか小さくうなずく。 「大事にするっていうなら、おまえにはやらなきゃならないことがあるんだから、愛だの恋だの言って浮かれる前に、俺はその手伝いをすべきなんだよな。話はそれからだ」 「やらなきゃならないこと?」  柊人は坂本から体を離すと、神妙な表情で深々とうなずいてみせる。 「今おまえが最優先すべきは、体を治すことだろ。まずはそれに集中しよう。めんどうなことは俺が全部ひきうけるから、おまえはひたすら楽をして、食いたいものを食って、楽しいことを考えて、気持ちを軽くして、とにかくもう少し太れ。他人の心配すんのなんか十年早いっつーか、おまえはまず、おまえ自身をたっぷりかわいがってやれよ。俺も、できる限りその手伝いをさせてもらうから……それで、いいよな?」  雰囲気にのまれて目を丸くしていた坂本だったが、有無を言わせぬその物言いに苦笑混じりの笑みを浮かべると、遠慮がちにうなずいた。 「……わかった。それで構わない」
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