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「よし。じゃあ、まずは手始めに昼飯だな。何が食べたいか、おまえのリクエストを聞いて厨房に連絡してくれって言われてたんだった。なんか、食えそうなものはないか? なんでも用意してくれるらしいから、少しでも食えそうなもんがあったら言ってくれ」
坂本はその言葉に目を見開くと、しばらく逡巡するように目線を泳がせてから、小声でつぶやく。
「……おまえの」
「え?」
首をかしげて聞き返され、気後れするようにいったんは言葉を飲み込むも、ややあって、おずおずと口を開く。
「おまえの……雑炊が、食いたい」
柊人は目を大きく見開いてから、戸惑ったような表情を浮かべた。
「いいのか? あんな、冷蔵庫の余りもんの寄せ集め……そんな貧乏くさいもんじゃなくても、もっと豪勢なもんがいくらでも食えるのに……」
坂本は決然と首を横に振る。
「どうしてもあれが食べたい。あれだったら体が受け付けてくれそうな気がするんだ。こっちに来てからも、ずっと食べたいと思ってたから……ダメか?」
坂本はそう言うと、不安そうに上目遣いで柊人を見やる。柊人はその表情にあてられたようにドキッとして呼吸を止めると、あわてて目線をそらして頷いた。
「わかった。厨房に連絡して、材料をもってきてもらうように頼むよ。ここで俺が作った方が、いいんだよな?」
坂本はホッとしたような笑顔をうかべると、深々とうなずいた。
「うん。俺、おまえが料理してるところが、……見たい」
柊人は困ったように笑いかけると、教団に貸与された携帯で連絡メッセージを打ち始める。坂本はそんな柊人の手元をじっと見つめていたが、ややあって、ポツリと口を開いた。
「俺……あの時、あの河原で、おまえに声をかけて、本当によかった」
柊人は文字を打つ手を止めると、首を巡らせて坂本を見つめる。
坂本は目線を落として軽くうつむいた姿勢になると、独り言のように言葉を継いだ。
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