6-19

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「……おまえ、こんなとこでなにしてんの?」  普段とほとんど遜色のない声の張りにいくぶんホッとしつつも、いきなりの詰問口調に面食らった柊人は、思わず言葉を濁した。 「え? ……いや、なにって」  床に飛び散った血痕のすぐわきに柊人が膝をついていることに気づくと、坂本は表情を凍らせて息をのむ。 「ちょっ、おま……そんなとこに膝をついてんじゃねえよ、早く立ち上がって後ろに下がれ!」  突然乱暴に急き立てられ、柊人は何が何だかわからないまま、とりあえず言われたとおりに立ち上がって後ろに下がる。坂本は柊人の膝が血で汚れていないのを確認すると、ホッとしたように小さく息をついてから、不機嫌そうな表情で柊人を見上げた。 「つか、おまえ、なんでこんなとこに来てんだよ……もうすぐ休憩が終わるだろ。さっさと教室に戻れよ」 「? なにを言ってんだよおまえ、そんな状態で……」 「そんな状態ってなんだよ」 「なにって……おまえ、倒れてただろ。吐いたみたいだし、ケガもしてるし……」  坂本はよろよろと体を起こして座り込んだ姿勢になると、不機嫌そうに答えを返す。 「吐いたのは腹殴られて気持ち悪くなっただけで今はなんともねえし、倒れたのはたぶん貧血のせいなんで、とくに心配ねえから」 「貧血って……そのケガのせいじゃないのか?」  坂本はまだ血が細く流れ落ちているのど元をハッとしたように手で隠してから、小さく首を振った。 「こんな程度で貧血は起きねえよ。たいして深く切ってねえし」 「たいしてって……そういう問題じゃねえだろ。そんなケガをさせるとか、完全に犯罪じゃねえか。あいつら、マジで頭おかしいだろ」  怒気をはらんだその言葉に、坂本は困ったように笑った。 「これ、あいつらじゃねえから」 「え?」 「自分でやったから」  発言の意味が分からず思考停止している柊人を横目に、坂本は床に手をついてよろめきながら立ちあがった。 「とにかく、俺は大丈夫だから、頼むからおまえは早く教室に戻れ。ここは人気がないっていったって、チャイムが鳴って、もしおまえと俺だけが教室にいなかったら、関係あるってのがバレバレで完全にヤバいだろ」 「そんなもん、バレたっていいだろ、もう……」 「よくねえだろ、普通に考えて」  坂本はおぼつかない足取りで流しに歩み寄ると、周囲に飛び散った嘔吐物のカスを手でこすって洗い流しはじめながら、疲れたような笑みを口の端にうかべた。 「とりあえず、あいつらはえげつないけど、明らかに命にかかわりそうなことからはサッと手を引くだけの理性が今のところあるんで、うちのオヤジよりは扱いやすいから、そんなに心配する必要はねえよ。最悪の事態にはならないから……」 「今のこの状況が最悪でなくてなんなんだよ!?」  突然、耐え切れなくなったように柊人が叫んだ。
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