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その先を一人の男性が歩いていた。黒縁眼鏡にダークグレーのトレンチコート。……狩野川先生だ……。
先生は、丁度サファイアビルの工事現場の下をくぐろうとしていた。
「鋼材って書いてあったよな」
「まさか」
歩道に乗り上げたプリウスが、歩行者を避けて工事現場の足場に迫る。
「放置鋼材って、あの上か?!」
そう言ったと同時に、プリウスはサファイアビルの工事現場の足場に突っ込んだ。足場が折れ曲がり傾いた。鋼材がぶつかり合いながら転がる音がする。上を見ると、足場の端から細長いパイプ状の鋼材がはみ出していた。
「狩野川先生~!」と直哉は叫ぶ。
すぐにもう一度、今度は宏典と二人で「先生、逃げろ!」と叫んだ。
先生がこちらを見る。直哉と宏典は足場から離れるようにと、両腕を右側に仰ぐように振った。
そのとき、鋼材が一気に地上に向かって落下し始めた。
「逃げろ、先生!!」
直哉が張り裂けんばかりに叫ぶと、先生が気が付き、歩みを止め、来た道を5、6歩後退りした。その直後に、鋼材が先生の頭上から弾かれた矢のごとく降り注いだ。地面が揺れ辺りに埃が舞い上がる。先生の姿が埃で見えなくなった。
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