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帰り道、自転車のペダルを踏みながら、芙蓉は晴斗に訊いた。
「学校で、晴斗の変な噂が立ってるの」
「え? どんな噂?」
「ときどき、晴斗の姿を千歳町で見かけるって」
「あ。それ、合ってるかもしれない」
芙蓉はそれを聞いてびっくりする。
「みんなは、晴斗が夜の街で働いてるんじゃないかって言ってるわよ」
すると晴斗が、ぷっと吹き出した。
「俺が、夜の街で? ホストとか? ……まさか、誓って言うけどそんなことはないよ。俺は記憶が失われている間、毎週、千歳町の心療内科でカウンセリングを受けてたんだ。でも……ひどい噂だな」
「やっぱり。晴斗がそんなことないって信じてた」
「ありがとう。俺が明日学校に行って、根も葉もない噂の後始末するから心配するな」
晴斗はそう言って微笑んだ。
芙蓉は、生きる力が漲る晴斗を久しぶりに見て、心から幸せだと思った。
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