第1話

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 まさかと思い、すし()め状態の電車をやり過ごす。すると5分後にやってきた電車は思いのほか()いていて、途中(とちゅう)の駅で座ることができた。  ……うそだろ? このアプリ……  再び現れた『Push』の文字。直哉(なおや)はアプリを終了し、落ち着きを取り戻そうとする。  電車はしばらくして駅に到着した。駅を出て自転車に乗り()えると学校に向かう。  能川(のかわ)高校は、都心からは少し離れた丘の上にある。グラウンドが広く、樹木の多い落ち着いた環境の学校だ。10月の()えわたった空に(ほうき)で掃いたような巻雲が浮かんでいる。木々は徐々に秋の準備を始めているように見えた。  直哉は3年2組の教室に入ると自分の席に座った。  直哉の左前の席に唯美(ゆみ)が座っている。ポニーテールの髪は(つや)のある飴色(あめいろ)。その根元に見えるうなじは白く()けるように美しかった。  唯美は、勉強もスポーツもよくできる。直哉とは全く逆のタイプ。2年生の時も同じクラスで、3年生の学級編成で再び同じクラスになったときは飛び上がるほど嬉しかった。でも直哉は、自分には()り合わないと思い、いつも彼女の姿を眺めるだけで満足している。……思い切り片思いだ。  直哉は、(かばん)からスマホを取り出すと『5分後アプリ』を開いた。画面の真ん中にオレンジ色のPushボタンが光っている。どうしても気になり再びPushボタンに触れた。  『5分後……あなたは先生に叱られます』  ……おいおいちょっと待て。俺は何も悪いことしてないぞ…… .
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