第1話

3/36
前へ
/285ページ
次へ
 しばらくして、数学の狩野川光(かのがわひかる)先生が教室に入ってくる。直哉はスマホを鞄に片付けた。  開けられた窓から、涼しい秋の風がキンモクセイの香りを乗せて教室に吹き込んでくる。  その風に押されたのだろうか、唯美の机の上からペンが1本床に転がり落ちた。ペンは、風に流されて教室の中央でまで転がり止まる。  直哉は、先生が板書をしている(すき)に、席を立ちペンを拾う。そして低い姿勢で唯美の席に行き右後ろから「はい」と声をかけた。唯美は「ありがとう」と言ってペンを受け取った。いつも恋しく思っている唯美と言葉を交わせた。直哉は嬉しくてたまらない。  「こら! 直哉! どうして席を立ってるんだ」  先生に気付かれた。直哉は、「しばらくそこで立っていなさい」と言いつけられた。  …… また、的中だ ……  結局、授業の終わりまで立たされたままだった。何考えてるんだ、先生…… .
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12004人が本棚に入れています
本棚に追加