第1話

5/36
9676人が本棚に入れています
本棚に追加
/285ページ
 逆に直哉は仰天(びっくり)した。憧れの唯美(ゆみ)が5分後に告白するというのだ。  「もう出ようぜ。塾に間に合わなくなるぞ」と宏典が急き立てるように言った。確かに駅前にある学習塾の始業まであと10分だ。直哉と宏典は漫画喫茶を出ると塾へ向かう。日はもうとっぷりと暮れているが、駅前は店舗の明かりと通行する車のヘッドライトに照らされ、(まばゆ)いばかりに輝いていた。  「直哉くん」  塾に入ろうとしたとき、ふいに後ろから呼び止められた。振り向き声の主を見てびっくりした。唯美だった。  直哉と同時に振り向いた宏典も、目をぱちくりさせている。  「どうしたの? 唯美さん」  「お願いがあるんだけど、こっちに来てくれる?」  「でも、もうすぐ塾が始まっちゃうし」  「大丈夫。すぐに終わるから」  「分かった」  来た……。心臓の鼓動が激しくなる。胃が喉から飛び出しそうだ。  直哉は、「ちょっと行ってくる」と宏典に言うと、唯美の後について塾の裏手の空き地に入った。 .
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!