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道から一歩内に入ると、たちまち喧騒は消え去り、ビルの間を抜ける冷たい風が吹きつけた。わずかに土の匂いが風に混じっている。
直哉は震える声で「話って、何?」と訊いた。
すると唯美が直哉の前に一歩進み出た。ビルの裏側から漏れ出る淡い光が唯美の顔を照らしている。唯美の表情は真剣だ。
「私、直哉くんのことが好き……」
直哉はどきりとした。唯美の瞳が潤んでいる。直哉が何も答えられずに黙っていると唯美が言葉を続けた。
「直哉くん、私と付き合ってください!」
きっぱりと言うと唯美は頭を下げた。ポニーテールが揺れて肩に流れかかる。制服のブレザーの襟元から白い肌がのぞいて見えた。
「けど、どうして僕なんかと? 唯美さんめちゃくちゃ可愛いし、性格真直ぐだし、勉強もスポーツも抜群にできるし……ぼくも唯美さんのこと大好きだけど、釣り合わなくないですか?……」
「そんなこと言わないで。私、直哉くんのそういう控えめで優しいところが大好きなんだから! …… だめなの?」
そう言って見上げる唯美の顔は、なんと愛くるしいことか。
「全然だめじゃないです。こんな僕でもよければ、よろしくお願いします!」
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