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黒で統一されたシンプルな車内。ダッシュボードの真ん中に埋まっている、最新鋭のカーナビが指し示す先は私の地元、鳥取砂丘だ。
あと、一時間程で着くらしい。
隣で楽しそうにハンドルを握る須藤さんを横目にしても、未だにこの状況が信じられない。
さっきまで、大阪市内のオフィスで、必死こいてリリース作業をしていたというのに。
「私達、何でこんな所に居るんでしょう?」
落ち着かなくて、ついそんな事を口走ると、呆れたような須藤さんの声が返ってくる。
「そりゃあ、リリースが無事済んで、明日が土曜日だからだろ」
「でも……」
口籠ると、前を見ていた須藤さんがチラッと私を一瞥した。ま、それは一瞬の事で、直ぐに視線を道路に移したけど。
でも、メタルフレームの丸縁眼鏡の奥、普段から細い目が更に信じられない位、糸目になっている。
「何だよ、ペルセウス座流星群見たいって言ったのお前じゃん?」
「そりゃあ、まあ、言いましたけど。
でも、まさか本当に行く事になるなんて……」
だって須藤さん。
ここの所、ずっと終電だったのに。
今日もリリースが終わるまでに一悶着あって、結局会社を出たのは二十一時を超えていた。
きっと疲れているだろうし、本当は一刻も早く帰って寝たい筈。
それなのに、大阪から高速を三時間もぶっ飛ばして鳥取砂丘に行くとか、尋常じゃない。
押し黙っていたら、須藤さんが訝しげに眉を上げた。
「何? 行きたくなくなった?」
ブンブンブンブンブン
反射的に、思いっ切り首を横に振った私を見て、須藤さんは、「ふっ」と鼻から息を吐いた。
「じゃあ、いいじゃん?
俺も流星、見たいし。
ついでに立花の地元にも行ってみたいし」
「ええ??」
「星が降ってくるんだろ? スゲェ楽しみ」
暗い車内、細かい表情までは読み取れないけど、声のトーンから、須藤さんが本気でそう思ってるのが伝わってくる。
えっと……。
流星が楽しみなのは分かりました。
でも……。
彼女でもない私の地元に行ってみたいって、どういう意味ですか?
気になり過ぎて、なんか動悸が激しくなってきちゃったんですけど。
心臓発作起こしたら、ちゃんと病院に連れて行って下さいよ?
ドキドキしながら、須藤さんに貰ったカフェラテを口に含んだ。
苦くて甘くて冷たくて。
何とも言えない、今の心境を具現化してるみたいだと思った。
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