行動力(side 立花)

1/2
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

行動力(side 立花)

わ、テカテカ。 深夜零時を過ぎた頃、閑散としたパーキングエリアのトイレの鏡を覗き込んで、思わず呟いた。 鼻の頭と頬が特に酷い。 今日はソフトウェアのリリースで朝からバタバタしていて、一度も化粧直しをしていない。 だから、ある意味必然なんだけど。 でも、こんな顔を今まで晒していたのかと思うと、ため息が出る。 ま、今日に始まったことじゃないけどさ。 気を取り直し、顔全体にティッシュをそっと当て、脂を押さえる。 取り切れない分は更にあぶらとり紙でオフして、プレストパウダーを軽く叩いて、チークをふんわり乗せて。 半分以上取れてしまっている口紅も、本当はキチンと直したいけど、リムーバーがないので、仕方がない。 厚めにリップクリームを塗って、一旦拭き取った後、もう一度、口紅を塗り直す。 思いがけず赤が綺麗に発色して、残業続きの疲れ顔を何とか誤魔化してくれた。 最後に唇の真ん中に軽くグロスを乗せて、当座の完成。 うん、大丈夫。完璧じゃないけど、ちゃんと可愛い。 そんな暗示を自分に掛け、トイレを出る。 出口すぐ近くの自販機コーナーには、職場の先輩で私の目下の想い人、須藤さんが待ってくれていた。 近寄ると、ペットボトルのアイスカフェラテをポイッと渡してくれる。 「悪いけど、着くまで起きててもらうぜ」 「当然です。あ、お金」 「良いよ、それくらい。それより、早く行こう。 のんびりしてると、朝までに着かない」 急かされて、さっき職場の近所で借りたばっかりの白いSUV車に乗り込んだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!